転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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 ミレー家を訪ねると、アルベール様は幸運にもご在宅だった。絶好のチャンスだ、と私は思った。ミレー公爵とエミールは、現在、バール男爵の故郷ティリナをご訪問中なのだ。夫人は、本日催しに出席されていてお留守である。邪魔が入ることなく、お話しできそうだった。



 アルベール様は、応接間で私を出迎えてくださった。やや戸惑ったような表情を浮かべておられる。無理も無い。辻馬車の中で突き放されてから三日間、私はコレット経由でさえ、彼に連絡を取ることは無かったのだ。彼を見限ったと思われても、当然である。



「どうされました? 事件に、何か進展でも?」

「いいえ」



 私は、きっぱりとかぶりを振った。



「今日伺ったのは、プライベートな用件ですわ。二人きりで、お話できますか」

「――人払いをしましょう」



 アルベール様は、執事を呼ぶと、何事か命じた。前回と異なり、私を自室へ通すおつもりは無いようだ。私からは距離を置くと表明されたようで、一瞬くじけそうになる。それでも私は、勇気を振り絞った。アルベール様を見つめて、用意してきた台詞を口にする。



「このようなことを、女性から口にするのははしたないということは、重々承知しています。ですが私は、アルベール様を愛しています。私を愛しているという、あなたのお言葉が(まこと)なら、私を妻にしていただけませんか」



 アルベール様が、一瞬絶句される。ややあって、彼は硬い表情で仰った。



「……前回、申し上げたはずですが。あなたと結婚することは、できないと」

「それは、あなたがバール男爵のお子であることと、関係あるのですか」



 アルベール様のお顔から、血の気が引いた。



「……どこから、そのような話を?」

「うちの執事が、クイユ家の執事と懇意にしておりました。二十一年前に、クイユ伯爵家に起こったことについて、私は全て知ってしまったのです」



 アルベール様は、黙って席を立たれた。



「場所を変えましょう。俺の部屋にいらしてください」
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