【お天気】スキルを馬鹿にされ、追放された公爵令嬢。不毛の砂漠に雨を降らし、美少女メイドと共に甘いスローライフ~干ばつだから助けてくれって言われてももう遅い~

44. 波乱の歓迎会

 次の晩、主要メンバーを集めてローレンスの歓迎会が開かれた――――。

「それではローレンス君のジョインを祝ってカンパーイ!」

 オディールは上機嫌にグラスを高々と掲げる。

「カンパーイ!」「カンパーイ!」「カンパーイ!」

 大手商会の幹部がジョインしてくれるのは想定もしていなかった理想的な展開であり、みんな嬉しそうにローレンスのグラスに乾杯を合わせていった。

 場が盛り上がってきたころ、ローレンスは座席を変えながら一人一人、嬉しそうな顔で巧みな話術を繰り広げていく。

「いやぁ、トニオ先輩! さすがですねっ!」

「そうだろ? 分かんないことは何でも聞いて!」

「ヴォルフラム先輩! 収穫祭の話聞きましたよ! 先輩あってのセント・フローレスティーナですねっ!」

「あ、いや、そんなことはないですって。ぐふふふ」

「ファニタさん、ちょっと前髪あげてもらっていいですか……。ふぅ、目が凄くきれいですねっ!」

「何言ってんの! いやだよぉ……」

 オディールはその様子を見ながら感服する。あざといヨイショではあったが、なぜかあざとさの裏に自分への好意を感じてしまうのだ。その心をつかんでいく技はまさに魔法とも言うべき高等なテクニックであり、とても自分にはできない。

 ローレンスが次に目をつけたのがミラーナだった。

「ここの建物はみんなミラーナさん作だって聞きましたよ! 本当ですか!?」

 大げさに驚きながらミラーナのブラウンの瞳をのぞきこむ。

「ふふっ、そうですよ。ここの建物はみんな私の子供たちなんです!」

 ミラーナは嬉しそうに目をキラリと光らせ、答える。

「ブラウンの瞳……、魅力的ですね。お付き合いされている方はいるんですか?」

 いきなり核心を突いてくるローレンスにオディールは思わずリンゴ酒(シードル)を吹きだしてしまう。

「え? いや……、そんな……」

 赤くなってうつむくミラーナ。

「ちょ、ちょっとそこ! セ、セクハラだよ! ダメダメー!」

 慌ててオディールは二人の間に割って入る。

「おっとこれは失礼……。あまりにも魅力的だったものですから……。乾杯……」

 ローレンスは上手くかわし、ミラーナのグラスにチン! とグラスを合わせた。

「このくらい大丈夫よ、オディ」

 ミラーナもニコッと笑い、別に不愉快には感じていないようだった。

「だ、大丈夫……? あ、そう……」

 本人に大丈夫と言われてしまうと、もうオディールには言うことが無い。

 オディールは渋い顔で首を振りながら席を移動し、レヴィアの隣にドカッと座った。

「おや? ミラーナに振られたんか?」

 レヴィアは樽をグッと傾けるとエールをそのままゴクゴクと美味しそうに飲む。

「ミラーナはイケメンに甘いんだよ!」

 ミラーナと一緒に花の都で暮らすという計画が、今、土台から揺らいでいるのをオディールは感じていた。例えミラーナがいてくれても、心を他の人に取られてしまったら、自分はどうしたらいいのだろう? 嫌なイメージが頭の中をグルグルと回り、オディールは耐えられなくなってリンゴ酒(シードル)をグッと飲み干した。

「ほう……? このままじゃ取られるかも……しれんのう……」

 レヴィアは談笑しているいい感じの二人をチラリと見て、嫌なことを言う。

「……。どうしよう……」

 オディールは今にも泣きそうな顔でレヴィアの腕をギュッとつかんだ。

「どうしようも何も、想いをそのまま伝えたらええじゃろ? 面倒くさい奴じゃな」

「えっ!? だって僕、女の子だよ?」

「ははっ、愛に性別なんぞ関係なかろう」

 レヴィアは笑い飛ばすと樽を傾けた。

「僕……。本当のこと、まだ話してない……。中身は違うのにベタベタしてたなんてとても言えない……嫌われちゃう……」

 オディールは涙目で口をとがらせ、うつむく。

「はぁ? お主がオッサンだったとして何の問題がある? 美少女とオッサンで魂の価値なぞなんも変わらんわ!」

「いやいやいやいや……。美少女とオッサンは月とスッポン、宝石とゴミだよ……」

「……。お主、何か勘違いをしておるぞ? オッサンだろうが美少女だろうが、魂に貴賤(きせん)はない。みな等しく尊いぞ?」

「え……?」

 オディールはポカンとしてレヴィアの真紅の瞳を見つめた。

「そりゃ、美少女はチヤホヤされるかもしれんぞ? じゃが、見てくれなんぞただの飾りじゃ。人間は他の人の心とどれだけ豊かな交流ができるかだけが全て。オッサンでも愛される者もおるし、美少女でも嫌われとる者はいるじゃろ?」

「いや、でも……」

「要はどんな外見かじゃない、その人の魂が相手の心にどれだけ寄り添えるか? じゃ。性別も年齢も人種も美醜もみーんな関係ないんじゃ」

「いや……、それは理想論だよ。カミングアウトして嫌われたらと思うと到底踏み込めないよ」

 しょんぼりするオディールをじっと見て、レヴィアは深くため息をつくと呆れたように首を振る。

「はぁぁぁ、お主は結構アレじゃな。そんなの黙っとけ! カミングアウトするってのは本人の自己満足に過ぎんわ!」

「えっ!? でも……」

 レヴィアはビシッとオディールを指さし、真紅の瞳をギラリと光らせながらにらむ。

「いいか? お主がどれだけミラーナのことを想っているか? それだけが問われとる。後は些細な事じゃ。黙っとけ!」

 鋭く言い放ったレヴィアは、また樽を傾けてゴクゴクとエールを飲んだ。

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