人肉病
友達も先生も両親もいなくなってしまったのに、今更元に戻る必要なんてあるんだろうか?
そんな私を圭太が腕を引いて歩き出す。
もう、一歩足を踏み出すことだって億劫だ。

けれど抵抗する気力もなく、無理やり足を動かしてついていく。
圭太の父親が扉を開き、長い通路を歩いていく。
その途中で何人かの大人や子供とすれ違った。
みんな普通の服を着ていて、施設の関係者ではなさそうだ。

元気に走り回っている子供へ視線を向けて圭太が「あれは林さんの家族?」と、父親へ尋ねている。


「あぁ。会社の行事で圭太も1度会ったことがあったかな。関係者たちはみんなここへ来ているんだ」

「自分たちだけ安全地帯にいたのかよ」


直が吐き捨てるように呟いて、父親が口を閉じた。
連れてこられたのは白いベッドが5床ほどある保健室のような部屋だった。
私と直はそのベッドに寝かされた。


「薬は点滴なんだ。これで体内にあるウイルスが消滅できる」


手際よく点滴の準備をすすめる父親に、圭太「俺は廊下に出てる」と、声をかけて部屋から出て行ってしまった。
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