Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
手を繋いで歩きながらお店を見ていると、私はふとある事に気づいた。

それはすれ違う女性たちが、みんなチラッと必ず智くんを見ていることだった。

なかには私が隣にいても目に入っていないのか熱い視線を送っている女性もいる。

カルロヴィバリでは日本人はほぼ見かけないから、相手は西洋人の女性なのだが、それでも智くんは目を引く存在らしい。

やっぱりモテるんだなと改めて驚く気持ちと同時に、なんだかモヤっとする感覚を覚えた。

(たぶん昨日歩いていた時も同じ状況だったんだろうけど全然気付かなかった。今日はやけに気になっちゃうな)

なんとなく繋いだ手をギュッと力を込めて握りしめてしまうと、智くんが不思議そうに私を見た。

「どうかした?」

「ううん、別になんでもないよ。それより、ねぇ、あのお店ちょっと見てもいい?」

「もちろん。入ろうか」

誤魔化しながらちょうど目に入ったボヘミアングラスのお店を指差す。

チェコのこのあたりの土地はボヘミアングラスが有名らしく、カルロヴィバリはその工場もあるそうだ。

店内には、透明に輝く美しいグラスがたくさん並んでいる。

「せっかくだし自宅用に買って帰ろうか。ワイングラスはどう?」

「素敵だね。いいと思う!」

智くんはいくつかのワイングラスを手に取って比べ、購入するものを決めたようだった。

「じゃあ買ってくるね。環菜は店内見て回っていていいよ」

「分かった」

そう言ってグラスを持ちレジへ向かう智くんだけど、手に持つグラスは当たり前のように2つだ。

(あれはどちらも自分用だよね?特に深い意味はないよね‥‥?)

私が家にいるのが当たり前のように感じてくれている気がして少し嬉しく思うが、それは偽りの状態であり、そう長くないことだと思うと寂しくなる。

私のビザは3月には切れるから、長くてもあと約5ヶ月くらいなのだ。

寂しさを紛らわすようにグラスに集中して、店内を見て回っていると、レジの方から女性の甲高い声が聞こえてつられてそちらに視線を向ける。

するとアジア人の若い女性に智くんが声をかけられているところだった。

日本人ではないから、おそらく中国人か韓国人だろう。

長い黒髪をなびかせた妖艶な雰囲気のあるその女性は、智くんの腕に触れながら英語で何か話しかけている。

ここからじゃ会話の内容は聞こえなかったが、言い寄っているのだろうということは簡単に想像できた。

智くんはというと、いつも通りの王子様スマイルを浮かべて、言葉少なに相槌をうっている。
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