Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜

#22. 予期せぬ訪問者

旅行から帰った後、家で【婚約者役を頼まれた彼に興味のない私役】をうまく演じられるかを不安に思っていた私だったが、その心配は思わぬ形で消えた。

それは智くんの仕事が忙しくなり、ほとんど家にいなくなったからだ。

家で顔を合わせる機会が減り、会ったとしても長時間じゃなかったので取り繕うことができたのだ。

婚約者役として同行するレセプションパーティーも多くなったがこちらは問題ない。

ただ彼を好きな自分を出せばいいだけなのだから。

2役をやるようになってから、演じるタイミングが完全に逆になっているという不思議な状況になんだか笑えてくる。

まさかこんなことになるなんて、偽装婚約者をやることになった時は思いもしなかった。


ふと、先日のレセプションパーティーで出会ったご夫人の言葉を思い出す。

ーーいつ相手がいなくなってしまうか分からないんだから、素直に気持ちを伝え合って、いつまでも仲良くするのよ?

あの時のこの彼女の言葉は私の胸にとても響いた。

いつ相手がいなくなるか分からないというのは、私も自身の家族を亡くした経験から強く同意する部分であった。

同じように智くんだっていついなくなってしまうか分からないのだ。

それはもちろん死という最悪の状況だけに限らず、いつもう婚約者役は必要ないと言われるかも分からないし、私のビザが切れたらもう会えなくなってしまうかもしれない、智くんの赴任先が日本になってしまう可能性だってある。

そうなってしまう前に素直に気持ちを伝えなくて良いのだろうか。

このまま偽装を続け、自分の気持ちも偽ったまま演じ続けてしまってもいいのだろうか。

ご夫人の言葉をきっかけに、こんな気持ちが少し芽生えつつあった。



そんな日々を送っていた11月下旬のある日のことだ。

思いもよらない訪問者が私の目の前に現れたのは。

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