Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
「‥‥智くん、お願いがあるんだけど」

「なに?」

「今日一緒に寝てくれる?こうやって一晩抱きしめていてほしい‥‥」

広い胸に抱きしめられていると、布団にくるまっているより安心できて落ち着けた私は、安寧を求めてお願いしてみる。

以前の経験から、こういう時は夜寝る時が一番辛いのだ。

「‥‥いいよ」

「ありがとう。それに何も聞かないでいてくれるのもありがとう」

「聞きたいけどね。言いたくないんでしょ?」

「‥‥うん」


だって言いたくても言えないのだ。

神奈月亜希に関することだから、絶対に智くんに知られたくない。


私たちは一旦身体を離すと、それぞれシャワーを浴びることにした。

夕食も食べていなかったけど、全然食欲がないから食べないことにした。

シャワーを浴び終わると、ルームウェアに着替えて智くんの部屋を訪れる。

ノックをすると迎え入れられた。

そういえば、智くんの部屋に入るのは初めてだなとぼんやりと思う。

大きな本棚にたくさんの本が並び、全体的にモノトーンでシックな部屋だった。

智くんも部屋着に着替えていて、Tシャツとスウェットというラフな格好だった。

「ごめんね、仕事で疲れてるのに無理言って」

「別にそれは気にしないで。頼ってくれるのは嬉しいよ」

「今日の智くんはなんかすごく優しくてちょっと怖い」

「それは環菜がいつも僕の裏を読むからだよ。基本的にいつも優しいでしょ」

「‥‥うん、そういうことにしておく」

ちょっと気力が戻ってきた私は会話できる程度には回復してきたようだ。

明日も仕事だから早めに寝ようということになり、ベッドに潜り込む。

またふいに脳裏にあの会話を思い出した私は、怖くなって自分から智くんにしがみついた。

やっぱり人の体温に包まれると安心する。

隙間を埋めるようにギュッとしがみつき、胸に顔を(うず)めた。

その温かさにホッとすると、泣き疲れていた私はだんだんと睡魔に襲われ、瞼が重くなったと思うといつのまにか夢の中に(いざな)われていったーー。
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