運命の人
『初めまして。試写を拝見させていただきました。声を含め全てが凄く良かったです!感動しました!』
「ありがとうございます。」
りゅうさんは事務所の先輩だと言う、斉藤健(さいとうたける)さんを連れて来た。
今にして思えば“これ”が初めての出逢い。
斉藤健さんと言えば、イケメン実力派俳優の一人。
演じる役によって憑依したみたいに、その役を生きる俳優さん。
デビューは子どもに人気の、変身系のドラマ。
その名を知らない人が居ない程の一流俳優だ。
だがしかし、共演者キラーとの呼び名も高く、私とは住む世界が違う人。という感じ。
そんな人が、ご丁寧に感想を言いに来てくれただけでも、こちらとしては恐縮だった。
『健先生、気は済みましたか笑?帰りますよ』
「……?」
『あぁ、うん。帰ろう』
『じゃあ、萌音ちゃん!またね〜』
「うん。りゅうさん、またね〜」
りゅさんと、りゅうさんの先輩は2人で仲良く帰って行った。
その後ろ姿を見送りながら、良い師弟関係なんだろうなぁ。と思った。
「萌音〜帰るよ!」
「あ、はーい!」
マネージャーが私を呼びに来てくれ、送迎車へと乗り込んだ。
このマネージャーは私と妹の萌歌と他数名のマネジメントを担当する、敏腕マネージャーさん。
及川七瀬(おいかわななせ)といい、歳は私より7歳程、上だろうか。
お姉さん、という感じ。私は彼女の事を“おいちゃん”と呼ぶ。
おいちゃんのお陰で私は、仕事に困る事なく過ごせている。
マネージャーとタレントの関係性は“家族より近い”と言われるのだが。
本当に、その通りで。
萌歌に話すのと同じぐらい、おいちゃんにも色々と話している。
仕事の事はもちろん、プライベートな事や、ちょっとした相談事なんかも。
「ねぇねぇ、おいちゃん」
「ん?どうした?」
「さっき、楽屋に斉藤健さんが来てくれたよ。試写がとっても良かったです!って嬉しかった♫」
「えっ!?斉藤健って、あの斉藤健さん?」
「うん笑?多分」
「珍しいね〜」
「え??」
「いや、斉藤健さんって、共演者や友達の作品を見に行くと、どこが良かったとか、どこがダメだったとか、鋭い所を指摘するって噂だから」
「そうなんだ?普通に、良かったです。って一言だけ言って帰って行ったよ?」
「だから珍しいなぁって笑」
「そっか笑。でも、あんな有名な人に感想を直接、言ってもらえるなんて嬉しいね」
「良かったね」
「映画もヒットしてくれたら良いな〜」
そんな会話をしながら帰った日が懐かしく感じる。
映画は異例の大ヒットとなり、天堂萌音と言えば!の代表作となった。