若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
定時を10分程過ぎて、ようやく今日の日誌を書き終え園長先生の机に向かう。

「ちょっと、宮本先生。」
そこに、ついさっき戻ってきた菜摘先生に捕まる。

「あなた、自由保育の時間に1人の子だけに構い過ぎ。子供は平等に贔屓しちゃいけないんです。学校で何を学んで来たの?」

菜摘先生のお叱言は続く…

「あの、まなちゃんが転んでしまって、擦りむいたので、早く消毒しなければと思って…。」

「私は言い訳が聞きたいんじゃないの。」
ビシッと区切られ、ビクッとして俯いてしまう。
怒られる事が怖いと思うのは、小さい頃に受けた父からの虐待のせいだろうか。

私自身も覚えて無い幼い頃の出来事だけど、
この街に来るまではいつも、何かに怯えて生きて来た。

大人になった今でも、自分自身に向かう負の感情は怖くて…普通の人よりもそれはきっと、何倍にもなって私の心に突き刺さる。

「菜摘先生、あまり新人を虐めないで下さいね。今は育てる期間であって、あなたのそれは虐めているようにしか見えません。」

園長先生が立ち上がり、私に助け船を出してくれる。

この園長先生だけには就職の面接の際に、柊生の妻だと言う事を話している。

何かと力になって助けてくれる温厚な人だ。

聞けば、旅館が所属する町内会の会長の知り合いで、商店街の会長とも同級生らしい。

世の中とても広いようで狭い。

「…しかし園長、これは彼女の為に言っているんです。目の前の事に必死になり過ぎて、周りが見えなくなるのが、新人の注意すべき事です。」
菜摘先生の言う事も大きく見れば一理ある。

「ご指摘ありがとうございます。これから気を付けて子供達と接するように努ます。」

私は真っ直ぐな心でそう言って、頭を下げて園長先生に頭を下げる。

「園長先生もありがとうございます。
未熟な私を庇ってくださって、ご迷惑をお掛けしました。」

「いえいえ。花先生が立派な保育士になれるように応援しています。」
そう言って、席に戻って行くので、私も菜摘先生に一礼して机に戻り後片付けを始める。

「花先生、気にする事無いよ。
あの人にとっていびりはただのストレス発散なんだから。」
美波先生がこそっと小声でそう言ってくれる。
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