乙女と森野熊さん


「警察官なんて乙女ちゃんに紹介したら、お父さんに怒られてしまうよ」


熊さんはそう言うとお肉を頬張る。

もうお父さんはいないよ。

なんて頭によぎったけれど口には出せなかった。

まだ実感が湧かないのだ。墓参りしても家にみんなの写真があって毎日お茶をその前に置いたとしても。

何となく両親とお姉ちゃんも海外に住んでいて、またしばらく経てば会える気がしてしまう。


「・・・・・・今度土日で休みが取れそうなんだ。どこか乙女ちゃんの好きなところに行こうか」


ほら。

私の気持ちが沈みかけたことに気が付いてフォローしてくれた。

おそらく熊さんにとって罪悪感からの行為だったとしても、一人になった私にはありがたいことだ。

どうすれば、本当の家族だと、そうなれたと確認する事って出来るのだろう。

血が繋がっていない、それもあんな出来事で同居することになった疑似家族では、きっと一生疑似家族なのだとは思うけれど。


「どこか景色の良いところに行きたいな」


「わかった、俺も探しておくから乙女ちゃんもどこか考えておいてくれ」


「うん。ご飯おかわりは?」


「いる」


私と同じ絵柄で一回り大きなお茶碗は既に空。

私は笑ってそのお茶碗を受け取ると立ち上がってキッチンへ向かった。
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