BABY主任は甘やかされたい~秘密の子育てしています~



お姉ちゃんに子供ができていた。
そんな事実を知らなかった父は激怒した。相手は誰なんだ、仕事はどうしたんだと、お姉ちゃんの胸ぐらを掴んで怒声を撒き散らした。


こっちが見ていられない程に姉のことを何度も叩いた。お母さんがお姉ちゃんとお父さんの間に入ったけど、父の手によって後方に突き飛ばされた。

母が身動きが取れない状況の中、父の罵声は止まらなかった。肝心の姉はというと、抵抗はせず無言のまま父にされるがままだった。


リビングのクッションに寄りかかって座る小さな子が、その様子をじっと見ているのが視界に入る。
泣きもせず、声もあげず、静かに親指を口の中に入れているだけ。


これはマズイと思って、咄嗟にその子を抱き寄せた。その光景を見せないよう、子供の視覚を覆ってリビングを出た。

廊下にもまだ父の声が響いてるから、こんな小さな子の前で勘弁してよと思う。




「あは、ちょっと喧嘩してるね。でも大丈夫だからね~」


頑張ってあやそうと、両脇を持って上に持ち上げる。笑わせそうとお腹に息を吹きかけた。
友達の年の離れた弟をこうやって遊んであげたことがある。けど、この子は全然笑わなかった。



泣きも笑いもしない、もちろん喋らない。



それが、希乃愛(ののあ)だった。



< 88 / 179 >

この作品をシェア

pagetop