処刑されるあなたは何故美しく微笑むのか
 私は、横たわっていました。

 これで何度目でしょうか?

 拷問によって痛みつけられ、朦朧とする意識の中、そんな事を考えます。

 罪状を読み上げる声。
 仕組まれた罪を信じ、憤る民衆の怒声。
 投げつけられる石と、それを制する兵士たちの叫び。

 いつもと、同じ展開です。


 私は、処刑されるまでの1ヶ月間を、何度も繰り返していました。
 処刑された私は次の瞬間、丁度処刑される1ヶ月前に巻き戻り、ベッドの中で目を覚ますのです。

 全ての始まりは、大好きな人――私が幼い頃から側で仕えてくれた、使用人である彼の死でした。

 ある夜、屋敷に忍び込んだ賊から私を守り、殺されたのです。

 大好きでした。
 愛していました。

 しかし、この気持ちを伝える前に、彼は死んでしまった。

 私は、泣き続けました。
 そして、神に祈りました。

 どうか……、彼が死ぬ前まで時間を巻き戻して欲しいと。

 叶わない馬鹿な願いだと分かっていながら、私はいつしかを泣きつかれて眠ってしまったのです。

 目が覚めると、私の身体はベッドの中にありました。

 確か机に突っ伏したまま、眠ってしまったはず。誰かが私をベッドの中まで、運んでくれたのでしょうか?

 そう不思議に思っていると、目の前に殺されたはずの彼がいました。

 始めは夢かと思いました。
 しかし、触覚や嗅覚が、目の前の光景が現実であると伝えてきます。

 恐る恐る今日の日付を尋ねると、彼が死ぬ丁度1ヶ月前だと分かり、時間が撒き戻った事を知ったのです。

 願いが叶った私は、彼が賊に殺されないよう対策をしました。

 しかし……、彼はその1ヶ月後、今度は突き落とされそうになった私を庇って死んだのです。

 私は再び祈りました。
 もう一度、時間を巻き戻してくださいと。

 目覚めると、また1ヶ月前に戻っていました。

 そして1ヶ月後、彼は死んだのです。
 前回とはまた、違う理由で。

 何度も何度もこの1ヶ月間を繰り返し、1つ分かった事があります。

 彼はいつも、私がきっかけで亡くなるのです。

 しかしどれだけ私から彼を遠ざけても、あの人は私の前に現れ、そして死ぬ。

 彼を救えず自暴自棄になった私は、彼の死の原因である私自身がいなくなればいいのではないかと、自死を選んだこともありました。
 
 しかし、それも阻まれるのです。
 必ず。

 そして1ヶ月後、彼は死にました。
 私を庇って。

 何度も何度も繰り返して、たった1つだけ、彼よりも先に私が死ぬ方法を見つけました。

 それは王太子から婚約破棄をされ、悪女として処刑されること。

 いつもと違った行動が変化を起こしたのでしょうか。
 王太子に目を掛けられ、私の意思と関係なく婚約を結ばされたことがありました。

 それによって妹に酷く憎まれ、罪人に仕立て上げられたのです。
 新たな変化が、どのような結末を迎えるのか知りたくて、私は冤罪を受け入れる事にしました。

 その結果が、処刑でした。



 私が死んでも、あの人が亡くなる運命は変わらないかもしれない。
 でも私が死ねば、もうあの人が目の前で亡くなる光景を見なくて済む。

 疲れた私は、処刑を受け入れました。

 私の首は、もうギロチンの台に固定され、逃れる術はありません。
 彼がどう抵抗したとしても、私を救い出す事は不可能。

 私が巻き戻りを願わなければ、彼を救う旅はこれで終わる。

 でも……、気づいてしまったのです。

 処刑という見世物に高揚する民衆の中で、只一人、涙を流し私をじっと見つめるその姿。

 処刑されるこの瞬間、私は彼から深く愛されていた事に気づいたのです。

 繰り返される時間の中で、何度か彼に想いを伝えたことがありました。しかし、彼は私の想いに決して答えてはくれませんでした。

 そんなあの人が今、私の死を目の当たりにし、涙を流して名を呼んでいる。愛していると叫んでいる。

 何度も何度も。

 言葉も表情も、今にも駆け寄らんばかりに前のめりになった身体も、全てが私への愛を伝えている。

 この瞬間、私の心は最高の幸せに包まれたのです。

 本当は、処刑が成功したら全てを終わらせるつもりでした。
 もう二度と巻き戻りは願わず、死を受け入れようとしていました。

 しかし、願ってしまった。

 救う為ではなく、
 あの人が私を愛する瞬間を見たいと。
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