純愛メランコリー

第4話


 放課後、逃げるように教室を出た私はいち早く昇降口へ向かった。

 向坂くんに見つからないうちに学校を出なければ。

 周囲を警戒しつつ、最後の階段を下りる。

 今のところ彼の姿はなく、心臓は緊張したような拍動を刻みながらも、落ち着きを保っていた。

「!」

 不意に息を呑む。
 床に足をついた途端、死角から誰かが現れた。

「よ、花宮」

 向坂くんだ。
 行く手を阻むように悠然と立っている。

 待ち構えていたに違いない。

「な……」

 あまりの衝撃に言葉にならない声をこぼしつつ、おののくように彼を見上げた。

「今日は会いに来なかったな。ずっと待ってたのに」

 どこか寂しげに言われるが、そこに含まれる真意はもう分かっている。

 早いところ私に手をかけられなくて残念がっているだけだ。

 いちいち惑わされたくないのに、つつかれたように気持ちが揺れる。

 彼の本性を知っても、どうして嫌いになれないのだろう。

「向坂くん……」

「あ? 何だよ、その顔。何かビビってんの?」

 彼はポケットに両手を入れ、高圧的に私を見下ろすと冷ややかに笑う。

 不穏な予感が気配を滲ませる。

 一歩踏み込まれ、反射的に後ずさった。

 そんな私の反応を見た彼は、じっと推し量るように見つめてくる。

(あ……)

 “昨日”を覚えているんじゃないか、と訝しんでいるのかもしれない。

 何もかも見透かされてしまいそうで、怖くなった私は逃げるように視線を逸らした。

「……へぇ。マジで分かりやすいな、お前」

 興がるように言い、今度は足を止めることなく歩み寄ってくる向坂くん。

 壁際まで追い詰められると、すぐ横に手が置かれた。

 逃げ場を失った私は、至近距離にいる彼から視線だけでも逃れようと逸らす。

「三澄もこんな気持ちだったのかもな」

 そう呟くと、すっと顔を寄せられた。

 彼の髪が肌に触れ、息遣いを間近で感じ、言葉の半分も理解出来ないうちに心が飲み込まれる。

 ……どうしてなんだろう。

 殺されるって分かっているのに、こんなときでも想いは募って止まない。

 どきどきしてしまう心臓が痛い。
 嫌になるくらい、甘く焦がれる。
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