純愛メランコリー
切なくて痛い。心が悲鳴を上げている。
思わずそっと俯いた。
「……そうなんだ。やっぱりね」
さして驚くこともなく、けれどどこか寂しげに蒼くんが言う。
そうでなければ、こんな葛藤もしなかったのに。
「自分が死ぬのが嫌なら好きな人を殺せ、って残酷過ぎるよ……。何かさ、そんな童話あったよね」
彼は苦い表情で言った。
────でも、私は好きな人の心臓にナイフを突き立てることは出来ない。
だからって私自身が泡になって消えるなんてことも受け入れられない。
沈んでいこうとする気持ちを奮い立たせ、凜然と顔を上げる。
「……私、諦めたくない」
自分の命も、向坂くんの命も、どちらも選びたくないから。
今度こそ、ハッピーエンドを信じたいから。
「だけど、どうするの?」
蒼くんは不思議そうな表情で首を傾げた。
その疑問は重々承知だ。
どちらも選ばないという結論では、結局行き詰まっている現状を打破出来ない。
でも、逃げるわけじゃない。
私は立ち向かうことに決めた。
「ちゃんと、向坂くんと話してみる」
そう言うと、彼は驚いたように目を見張り、すぐに険しい表情を浮かべる。
「無謀じゃない? さっきの感じだと、話なんて通じないように見えたけど」
その心配はもっともだろう。
私も分かっている。
今の向坂くんには理性があるのかどうかすら怪しい。
「だけど、それしかないよ。話は通じなくても言葉が通じないわけじゃないし、信じてどうにか頑張るしかない」
「会いに行っていきなり殺されたらどうするの?」
眉をひそめた蒼くんの問いかけに、私は口を噤んだ。
昇降口でだって危うくそうなりかけた上、自分一人ではどうにも出来なかった。
また同じことが起こる可能性は高い。
────でも。
「……蒼くんがいるから」
もう、ひとりぼっちだって悲観しない。
「菜乃ちゃん……」
もう、油断しない。
二度と向坂くんに私を殺させない。
何度自殺することになっても食らいつくだけだ。
私の言葉は届くって、以前の彼に戻ってくれるって、勝手に信じることにする。
私は遠くを眺め、固く唇の端を結んだ。
(見守ってて、理人)
理人が守ってくれた私の“今”を、簡単に投げ出したりしない。
(私、頑張るから)
うまくやるから。
底なしの後悔に、また飲まれることがないように。