純愛メランコリー

最終話


 鳴り響くアラームを止め、そっと目を開けた。
 たくさん泣いたせいで瞬きが重い。

 あの後、病院からどうやって帰って来たのかも覚えていない。

 受け入れようとしても、未だに信じがたくて。

(向坂くん……)

 本当に死んじゃったんだ。

 心にぽっかりと空いた空洞に、冷たい風が吹き抜ける。

 この喪失感が、深い悲しみが、埋まる日は来るのだろうか。

 彼のいない世界で、私は生きていけるのかな?



 ベッドから下り、学校へ行く支度を整える。

 暗闇に閉じ込められ、何もかもから置き去りにされているみたいなのに。

 どんなことがあっても時間は私を待ってくれない。

 ループから抜け出したからか、嘘みたいに身体が軽くなっていた。

 死の苦痛から解放されたのだ。

 皮肉なものだけれど、向坂くんのお陰なのかな。
 彼がすべてを持って行ってくれたのかもしれない。



 鬱々と沈むような気持ちで教室に入る。

 机に鞄を置いたとき、蒼くんが歩み寄ってきた。

「大丈夫?」

 そんなわけがなくても、そう聞かれるとどうしてか首を縦に振ってしまう。

 今さら蒼くんに強がる必要なんてないのに。

「うん……大丈夫だよ」

「本当に? そんなはずないよね……、急に理人くんがあんなことになっちゃって」

 平気を装おうと無理に浮かべた笑顔が引きつった。

 向坂くんじゃなくて、理人?
 ……ううん、それ以前にこの台詞は────。

「無理しないでね。菜乃ちゃんまで倒れたら大変だし」

 唖然とした。

 呼吸すら忘れ、信じられない気持ちで彼の双眸を見つめる。

「……どうかしたの?」

 案ずるように首を傾げる蒼くんに何か言おうとしたとき、カシャン、という軽い音が耳に届いた。

 その出処を見やれば、女の子のシャーペンが床に落ちたところだった。

 そして、スマホを囲む男の子たち。
 別の彼にぶつかって、水がこぼれる────。

「あ、蒼くん……。今日って何日!?」

 勢いよく彼の上腕を掴み、縋るように尋ねた。

「え? えっと、7日かな」

 やや気圧されながらも蒼くんはそう答える。

 それを聞き、思わずたたらを踏んだ。

(まだ……)

 まだ、今日(ループ)は終わっていない。
 明日は来ていない。……ということは。

「向坂くん……!」

 彼は生きている。

 今日が終わっていないのなら、彼が亡くなった事実も消えた。

 蒼くんの困惑したように引き止める声を背に、私は教室を飛び出した。
< 84 / 90 >

この作品をシェア

pagetop