この熱に溺れてしまいたい。
……やっぱり、だめだ。
先輩以外の吸血鬼を前にすると、体が動かない。手も足も震えて、どうすることもできない。
「あれ、血吸ってもいい感じ?」
私がなにも話さないことを勝手に解釈されて、どんどん近づいてくる男の人に、息が詰まる。
吸っていいわけ、ない。私が血を吸って貰いたいと思うのは、ひとりしかいないの。
そう強く思っていても、体は動いてはくれなくて。まだ情けなく震えたまま。
ーーもう、だめかもしれない。
目の前の人が私の首元のボタンに手をかけて、ぎゅっと目をつむったとき、誰かに肩ごと引かれる感覚がした。
それは、よく知っている体温で、安心泣きそうになるのを必死で堪えた。
「ーーいくよ、小夜ちゃん」
低い声で促されたあと、今度はしっかりと手を繋がれて、お互い無言で歩き出す。
久々に名前を呼ばれて、雫が溢れたことには気づかれてないはず。
「……せん、ぱい」