この熱に溺れてしまいたい。
ーー……
「わっ、」
あ、ぶない。このプリントすごく多いから、運ぶのに一苦労。
こんなの女の子に持たせちゃだめでしょ、ぜったい。
そう心のなかで毒づくと、罰が当たったように廊下につまずいた。
「………、あれ?」
打ち付けられる痛みにぎゅっと目を摘むって構える。……のに、全然痛くない。
そこで感じたのは、痛みじゃなくてふわりと香るムスク。
「せーふ」
その言葉が、廊下が静まり返っているせいか、やけに頭に響いた気がした。
「……え、」
突然現れた彼は、体制を崩した私をしっかりと支えてくれていて。その割には、随分とゆるい声だった。
「だいじょーぶ?」
呆気にとられている私に、ひらひらと手をかざす彼。
「っ、あ、はい。大丈夫です」
「なら良かった」