クールな甘音くんが、私推しの読み専になりました。



甘音「……どうしたの?」
文乃「……あ、の、……えっと、その……ッ」
   
 甘音を目の前にして、思わずしどろもどろになる文乃。しかし、甘音はちゃんと文乃と向かい合って、

甘音「……大丈夫。ちゃんと聞く。ゆっくり話していい」
文乃「……あ、の……!」

 なんとか言葉を紡ぎながら、文乃はポケットから目薬を取り出す。

文乃「……これ、ありがとうっ。……でも、ごめん! ……受け取れないよ」
甘音「……、……どうして?」
文乃「……それは、その……」
甘音「気にしなくていい。こう見えて俺、そんなに貧乏じゃないから」
文乃「そ、そういうことじゃなく。……えと、ていうか、本当はなんというか……、その」
甘音「?」
文乃「……わ、」
文乃「――私、……自分で目薬入れるの、苦手なの……ッ!」
甘音「……」
文乃「……こ、子どもみたいだよね。……でも、せっかくくれたのに、無駄になっちゃうかもだからッ、だから、本当に……お気持ちだけで。……じゅうぶん、嬉しかったから。……だから――」

文乃(……言えてる。言えてるよ、マリンちゃん。わたし、思ってること、ちゃんと甘音くんに……!)

 感極まって一度息を吸い、そのまま続けようとする文乃だったが。

甘音「――じゃあ、貸して?」

文乃「え?」
甘音「……貸して」

 不意に文乃の手から奪われる目薬。何かと思っていると、

甘音「ちょっとそこ入って……で、座って」

 手を引かれ、空き教室に入る。誘導されるがまま、椅子に座り。甘音は目薬の包みとふたを外して。

文乃「……えッ?」
甘音「……大丈夫」
文乃「……!」

 何の違和感もない自然な動作で、甘音が立った状態のまま、座った文乃の顔をくいっと仰向けにする。滑らかな指先が優しく撫でるように目蓋に触れ、

甘音「――すぐに、終わらせるから」

文乃(え、えっ、えっ?)

 覆いかぶされるように俯いた甘音と、上下反転して目が合う。艶やかな金髪の長い前髪が垂れ、目元に影を作っているのがすぐ近くで目に入った。そう思った瞬間。

文乃「……んッ」

 急激に視界が水滴で覆われ、眼球が潤う。

甘音「……あ、まだ閉じない。我慢」
文乃「……うっ」
  「……あっ」
甘音「変な声出さない。気が散るから」
文乃「ご、ごめんな、ひゃッ!?」
文乃(なななにこれ、とっても心臓に悪いよ……!?)
  「ハァ……ハァ……」

 いろんなドキドキで脳が混乱して荒い息をしていると、

甘音「よし。じゃ、……つぎは反対側、いく?」
文乃「……え、ちょ、ままま―――ッ!?」





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