千秋先生は極甘彼氏。

 『おつかれ、果穂。今いい?』

 千秋先生はいつも必ず名前を呼んでくれる。低くて重みのある声なのに甘くて優しい。自分の名前がとても特別に聞こえて呼ばれるたびにくすぐったくなる。

 「今、友人と食事してて少しだけなら」
 
 ちらっと美雨ちゃんを見れば「えー」と頬を膨らませている。いつもみたいに話せ、ということなんだろうけどそれはふたりの時がいい。

 『そう。じゃあ時間を改めるよ』
 「ごめんなさい」
 『どうして謝るの。俺が果穂の声を聞きたいだけなんだから』

 ぎゃあぁあキターーーー!

 美雨ちゃんを見れば目を三日月型にして口角を最大限に上げて変態おじさんみたな顔をしている。

 「……帰ったら連絡します」
 『わかった。帰るときは気をつけて』

 じゃあね、と切られた電話に小さく息を吐く。
 ニヤニヤとうるさい視線から逃げながら何でもないフリしてお箸を持った。

 「“俺が果穂の声を聞きたいだけなんだから”だって」
 「……ぎゃあ♡ってなるよね?」
 「うん。いいじゃない」
 「うん…ただ、ストレート過ぎてちょっと困るというか」
 「どうリアクションしていいのか分からないってこと?」
 「そう。内心舞い上がって踊ってるんだけど」
 「想像つくわ」

 私の心はいつの間にかバレリーナになりつつある。白鳥の湖もくるみ割り人形も子犬のワルツも踊れるぐらい桜が舞っていた。ただそれを素直に表現できるわけでもなく。

 「…やっぱ10年ブランクあるとどうすればいいかわからないの。余計なこと言わないかな、とか。変なところ見せたくなくて」
 「見せればいいのに。逆に果穂は千秋先生の変なところ見たくない?」
 「見たい!すっごく見たい!!」
 「でしょ?だったらいいじゃない」

 食い気味に返せば美雨ちゃんにドヤ顔された。自称千秋先生マニアの私にとってどんな千秋先生も眼福に違いないもの。

 「大丈夫よ。千秋先生なら全部喜んでくれるって。あとはその日に備えて準備しよう。思いっきり色っぽい下着とか可愛い部屋着とか買いに行こ?」

 美雨ちゃんのいう通りいつその勝負の日が来るかわからない。今着ている部屋着も気に入っているけど、年季が入っているしそろそろ新しいものを買ってもいいかもしれない。

 「…そうだね。買いに行く」
 「うんうん。果穂って意外と大胆なところあるから展開が早そうな気がする」
 「…さすがにちょっと怖いから自分からいく勇気は出ないかも」

 なんたって途中までしかシたことがない。男性のアレが途中まで入っただけで激痛だったのにすべて体の中に挿れたら失神してしまいそうだ。

 今から色々と心配になる。ただでさえ千秋先生と身長差があるし。一般的な大きさとかもわからないけど、産婦人科での触診でもまあまあ痛かったし…。

 「そういうのは千秋先生に丸投げすればいいの。果穂はもっと“一緒にいたい”って思ったらきっとそう言っちゃうから」
 「エスパーかな?本当に言いそうで怖い」
 
 両腕を胸の前でクロスして腕を撫でていると美雨ちゃんが大笑いする。

 
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