LE CIEL BRILLANT 〜無職29歳、未経験の仕事に挑戦したらジュエリーデザイナーにこっそり溺愛されてました〜

11 未知

「ごっめーん、例の人来たんだって?」

 閉店時間を過ぎてから、直哉が店に現れた。もう女性陣は帰ろうとしてたところだった。瑶煌(たまき)は残業と言って工房にこもっている。

「そうよ、新人さんをふりまわして大変だったんだから」

 大変だったのはむしろ中清水さんでは、と思いながら藍は二人のやりとりを見る。

「瑠璃から電話もらってさ、とりあえず来てみたんだけど無事に帰ってくれたみたいだね」

 直哉の顔には安堵(あんど)が浮かんでいた。

「ホストみたいな営業するから勘違いする女性がいるのよ。すごい素敵ですよ、()れちゃいそうです、とかさ」

 帰り支度を終えた瑠璃(るり)が直哉に文句をつけた。

「瑠璃さんはホストクラブ行ったことあるんですか?」

 疑問に思ったので素直に聞いてみる。

「ないわよ!」

 瑠璃は怒ったように返すが、それを見て直哉はクスクス笑った。

「けっこう大物かもね、茅野さん」

 言われた意味がわからなくて、藍はきょとんとする。とりあえず瑠璃のご機嫌を損ねたことだけはわかった。

「帰るわ。お疲れ様です」

 そう言う瑠璃の視線は藍を通りすぎ、直哉と純麗だけをとらえていた。

 お疲れ様、と返す二人に混じって藍も挨拶する。が、瑠璃は藍を見ることなく帰っていった。

「じゃ、俺たちも片付けて帰るか。瑶煌は……今日も残業か」

 直哉が工房のほうに目をやる。つられて瑠璃もそちらを見る。が、壁があるだけで工房の中は見えない。

 工房の中では何が行われているのだろう、それもまた未知の世界だ。

 藍は知らないことの多さにめまいを覚えた。



< 42 / 262 >

この作品をシェア

pagetop