束の間を超えて ~片想いする同僚兼友人に、片想いをした~ 【番外編追加済】

4. 疑惑

 彩子があの事実を知る前のこと。

 洋輔は恋人に対しても完璧人間だと思っていた。

 彼はいつだって恋人を大事にしていた。彩子はそれを知っている。

 もちろん彩子がそれを直接見たわけではない。だが他の同期も交えて食事にいったときなどに、洋輔が恋人との時間について漏らすのだ。洋輔が自ら語りはじめるわけではないが、モテ男の恋愛話を聞こうと周りがはやし立てるものだから自然とそうなる。この男は根が優しいから、からかわれたとしても律儀に答えてしまうのだ。

 そうして洋輔の話を聞いてみれば、まさしく女性の理想像のような人物が浮かび上がるのだ。


 恋人への好意は表に出して伝える、誕生日など特別な日には必ず一緒に過ごす、プレゼントも惜しまず贈る、週末はデートに誘う、恋人がいるときは決して他の女性と二人きりにはならない、などなど。


 普通ならそんな男が振られるはずもない。いったいこの男にどんな欠点があるというのだろう。だから、初めは洋輔の失恋話が不思議でしかたなかった。洋輔が相手を見かぎるのならまだわかる。だが、いつも傷ついているのは洋輔のほうなのだ。

 彩子が洋輔と二人でいたって不快な気持ちになることなど決してない。よほど難ありな女性とばかり付きあっているのではないかとすら思った。


 だから洋輔を好きになってからは、自分なら絶対振ったりしないのにと思うようになった。それは当然だ。どれだけ一緒に過ごしても嫌なところなど一つもないのだから。

 洋輔が恋人と別れるたびに想いは募っていった。



 しかし、そのときの彩子はまだ、洋輔が致命的な欠点を抱えていることに気づいていなかったのだ。
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