束の間を超えて ~片想いする同僚兼友人に、片想いをした~ 【番外編追加済】
「え、姉ちゃん、何してるの? 動画とか見てないで寝てなよ。具合悪いんだから」
「いや、動画じゃないから」
「は? ん? え、これ通話? あ、ごめん仕事?」
「あ、いや、仕事じゃないから大丈夫。それよりどうしたの?」
「あ、うん。何かいるものあるか聞こうとしただけ」
「ううん、ないよ。大丈夫」
「わかった。じゃあ、行ってくるね。邪魔してごめん。って相手の人にも言っといて?」

 彩子は裕哉を見送ってから洋輔との通話に戻った。


『ごめん』
『いや。それより具合悪いって聞こえたんだけど』
『うん、ちょっと……』
『え、じゃあ無理しないで寝てて? 家出るまでもうちょっと時間あるでしょ? 話はまたいつでもできるから』
『うん……』
『きつかったら、無理しないで会社も休んで』
『うん』
『じゃあ、今日はもう切るね。じゃあね、彩子。好きだよ』


 本当はもう少し話していたかったが、こうなってしまってはどうしようもない。彩子は大人しく出社の時間まで休むことにした。


 洋輔は今日もまた好きだと言った。

 彩子にとってそれはもう呪いの言葉のようで、それを聞いただけで身体がずんと重くなるのがわかった。



 それから一ヶ月、弟のおかげもあって、彩子は完全回復とまではいかないものの、働くのに問題ない程度には元気になっていた。


 洋輔は相変わらずその言葉を口にするが、心が麻痺してしまったのか、感じる痛みは小さくなっていった。
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