束の間を超えて ~片想いする同僚兼友人に、片想いをした~ 【番外編追加済】

3. 進めたい関係

 あの日、館内はひどく混んでいて、気づけば彩子を見失っていた。

(あれ? 折戸いない……)

 周りを見渡せば、後ろを歩く集団に埋もれた彩子がいた。こういうときに割り込んでいけないのが彩子らしい。

(ははっ、困ってる。しょうがないな)

 彩子のところまで戻ってやれば、申し訳なさそうな顔をするから、洋輔もつられて謝っていた。

 またはぐれても困るし、ちょっとしょげてる彩子を元気づけたくて、からかい半分に手を繋いだ。

 どうせ冗談を言うなり、怒るなりするだろうと思っていた彩子の反応は予想とは違って、少しだけ驚いた顔をしたあとに、ふわりと笑ってみせたのだ。

(えっ……かわ、いい……)

 ありがとうと伝えているような、嬉しいと言ってるような、そんな表情だった。

 それを目にすれば、洋輔は自分の胸の内を何とも言えない感情が通り抜けていくのを感じた。


 これが彩子の恋人に見せる顔なのか。自分が行動を起こせばもっと見せてくれるのだろうか。もっともっと見たい。洋輔はそんなふうに思った。


 もう少し距離を縮めてみたい。だが彩子は洋輔のことを好いて付きあっているわけではない。その距離を縮めれば離れていくかもしれなかった。


 だから洋輔は、どこまでなら許してくれるのか、一つ一つ確かめるように、徐々に二人の距離を詰めていくことにしたのだ。
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