束の間を超えて ~片想いする同僚兼友人に、片想いをした~ 【番外編追加済】
 昼に彩子に飲みに行こうとDMを送ってきたのは洋輔だった。DMで誘われたのは三ヶ月ぶりだ。おそらく恋人と別れたのだろう。

 洋輔は恋人と別れるたび、こうして彩子を飲みに誘うのだ。恋人と別れたときの洋輔はとてもわかりやすい。明らかに普段より口数が減り、元気がないのが見てとれる。だから彩子はどうしたのかと毎度訊くのだ。そうして振られたと落ち込む洋輔を励ましてやる。


 今日の洋輔もそうだった。運ばれてきたビールを口にすると洋輔はため息をこぼした。自分から誘ったわりにビールばかり口にして何も話そうとしない。やはり、こちらから話を振ってやるしかないかと彩子から問いかけた。


「で? どうしたの?」
「……振られた」

 やはり恋人と別れて落ち込んでいるようだ。

「そっか……振られたんだ」
「うん……」
「それは、つらいわな……」
「うん……」
「悲しいわな……」
「うん……」
「淋しいよね……」
「うん……」
「……折戸さんがよしよししてあげようか?」
「うん……」

 ちゃんと理解して頷いているのだろうかと疑問に思う。だが手を伸ばして頭を撫でてやれば、大人しくされるがままになっている。

「まあ、今日くらいは酒飲んで淋しさ埋めてもいいと思うけど、まだ水曜だしあんまり飲みすぎたらだめだよ?」
「うん。ほどほどにするよ」
「よろしい! じゃあ、次何飲む?」
「折戸のはハイボール?」
「そうだよ」
「じゃあ、次はハイボールにしようかな」

 彩子は店員を呼んでハイボールを頼んだ。酒だけじゃなくて料理も食べろと言えば、洋輔は大人しくテーブルの上のつまみを口にする。


 気づけば洋輔は四杯目の酒に突入していた。一方の彩子は最初の一杯以降ずっとソフトドリンクを飲んでいる。今日の彩子は介抱役だから酔うわけにはいかないのだ。

 彩子も洋輔も普段は料理メインで楽しむタイプだが、どちらかが落ち込んでいるときには、気の済むまで飲ませてやるのが暗黙のルールになっていた。とはいえ潰れるまで飲むと大変なので、頃合いを見て止めるのも介抱役の仕事だ。何度も一緒に飲むうちに二人は互いの酒の許容量も把握していた。
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