孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない

***

 壱弥さんが実家に挨拶に来てくれた日以来、私たちは夜、手をつないで寝るようになった。

 なんて健全で微笑ましい関係だろうと思いつつ、内心では物足りなさを感じ始めてもいる。触れ合ってるのに寂しいと思うなんて、きっと今が肌寒くて人恋しい季節だからだ。

 冷たい風が吹き抜けて、コートの襟を掻き合わせる。十二月に入ってから気温がぐんと下がったけれど、前を歩く広い背中はまだコートを羽織っておらずいつものスーツスタイルだ。

 日が沈んだばかりの空にオレンジ色の残照が見える。暗くなっていく空と対照的に周囲の飲食店には次々と明かりが灯っていた。

 午後五時。「食事をしていく」と社用車を下りた壱弥さんは駅周辺を確認するように一周すると私鉄系のビジネスホテルが入ったビルの前で立ち止まった。

 薄暗い中でも彼の容姿はとても目につく。その証拠に、道行く女性たちがチラチラと彼に視線を送っている。

 傍らに立つ私はきっと妻どころか秘書にも見えないだろうな。

 形だけでほとんど空みたいなビジネスバッグをぎゅっと握りしめる。他人を振り向かせるほどの魅力をもつ彼とはプライベートでもビジネスでも全然釣り合わない。

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