孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
 私たちの結婚は始まり方が普通とは違うし、彼は毎日忙しいし、そもそも結婚に興味がない人なのだから、式とか指輪には思いが至らないのだろうなとは思っていた。

 そうなると婚約指輪を用意してくれたのが不思議だけど、深水さんあたりから指摘されていたのかもしれない。

『結婚というのは紙切れだけの契約事項ではなく、通常は婚約指輪を渡しながらプロポーズすることから始まるのですよ』

 そんなふうに困ったような微笑を浮かべて、常識外れの結婚話を提案した社長を窘める秘書の姿が容易に想像できた。

「私は特にこだわりがないので、どちらでも大丈夫ですよ」

 それに私たちは不安定な関係だ。契約結婚はいつ契約終了になるかわからない。結婚式で周囲にお披露目をしてから離婚するというのは、壱弥さんには体裁が悪いのではないだろうか。

「俺も特にこだわりはないが……このあいだ弟が言ってただろ」

 脳裏を過ったのは、弟、太陽の涙ぐんだ顔だ。

 ――俺、姉ちゃんの花嫁姿見たいなぁ。

「結婚は基本的に当人のためだと思ってるが、家同士のためという考え方も理解している」

 まあ、うちには家柄なんてものはないがな、と付け足して彼はビールのグラスに口をつけた。

 ああ、こういう人だった。

 きゅっと胸が音を立てる。

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