孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
 そう考えると、『結婚』という言葉の重みも薄れる気がした。いつだって引き返すことができる。それならこの『取り引き』は私にとってどれだけ有益な話だろう。

 紙切れ一枚の契約書に記入して穂高社長と毎晩同じベッドに入るだけで、月百万の報酬を得られる。

 つい笑ってしまった。ひと言でまとめたら、とても怪しい話だ。持ち掛けてきたのがホダカ・ホールディングスの社長でなかったら絶対に断っている。

 私はテーブルの下に置いたままだったバッグからペンケースを取り出し、目の前に婚姻届を広げた。ボールペンをもって一呼吸し、空欄を埋めていく。

 表情を変えずにそれを見ていた穂高社長は、私が印鑑を取り出すとさすがに驚いた顔をした。

「ここのところハローワークに行って書類を書く機会が多かったから、持ち歩いてたんです」

 先回りして答えると、彼は微かに笑った、ように見えた。

 記入を終えて用紙を差し出す。

「私、あなたの妻になります」

 遊佐ひかり、二十六歳。結婚という名の就職が決まった瞬間だった。













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