そして、僕は2度目の恋をする。
そして、。
夏の暑い日差しに目が覚めた僕は、時計を見ると驚愕する。
「やばい、寝坊した!」
素早く着替え、歯磨きもそこそこに、日課の仏壇の前で手を合わせる。
仏壇に飾ってある小さなフォトグラフには歴代の家族の写真が並んでいる。

右の写真はひいじいちゃんとひいばあちゃん、仲良く手なんか繋いでる。
ひいじいちゃんは60歳で亡くなった。どうやらガンで手の施しようがなかったらしい。
せめてもの救いは眠るようにして亡くなったという事だ。
ひいばあちゃんは90歳まで生きた。こちらは老衰。昔から恋多き女性だったらしいが、最後はひいじいちゃんの元に戻ってきたんだって。でも、最後の言葉が「リョウちゃん、お待たせしました。」これは親戚中の語り草になった。最愛の人の最後の言葉が別の男性の名前だなんて、ひいじいちゃんは浮かばれないよな。

左の写真は俊太じいちゃんとその家族。みんなピシッとしてなんだか凛々しい。
じいちゃんは大手の電気会社を辞め、ひいじいちゃんのお父さんが始めた会社の社長さんになったらしい。ひいじいちゃんの次の社長さんがじいちゃんの才能を高く評価して社長職を譲り、会社を一気に県内一にした話は僕ら家族の語り草だ。
切れ長の目に引き締まった体で、ものすごくモテそうだけど、じいちゃんは奥さんと家族だけを愛してたらしい。やっぱかっこいいな!

ちなみに僕はひいじいちゃん似で平々凡々な顔立ちだ。

さて、そろそろ行かないと遅刻してしまう。僕は慌てて家を飛び出した。

門の入り口では母さんが掃除をしている。
「母さん行ってきます!」と母さんに走りながら伝えた。
そしてふと、足を止め母さんに向き直り『母さん、僕を産んでくれてありがとう!』
と言ってしまう。
母さんは照れながら「何を言ってるのこの子は!」と嬉しそうに返してくれた。

(僕は何を言ってるんだ?)そう思い恥ずかしさを隠しながら自転車に跨った。

家の坂を自転車で下ると、右手にひと際大きな家がある。
ここは僕の先輩の家で建築業の仕事をやっている。
先輩は熊みたいな顔してるのに頭がよく、学校の生徒会長もやっている。
最近は学校一美人の副会長に「わたしの王子様!」って告白されて付き合ってるらしい。
あの熊顔が王子様に見えるなんて、恋の魔法てすごいな。

自転車を置いて、待ち合わせの場所に行くと3人がこっちこっちと手招きしている。
今日は夏祭りで、先輩に女の子を紹介したいと言ってたので、僕が遅刻すると不味かったんだよなぁ。

小言でも言われるかもと近づいたけど、先輩はどうやらそれどころじゃないらしい。
僕が紹介する女の子じゃなくて付き添いできた僕の幼馴染と一生懸命話してる。
えーっと思いもう一人の方を見ると、あきらめたのかお手上げポーズをとっている。
話をしている幼馴染を見てても満更じゃない顔で話してるのでこのままで良いのかも知れないと思えてきた。
その時、僕の心の中で何かが動いた。そして、どんどんそれは何かの使命感へと変わっていく。
気が付くと先輩と幼馴染の間に割って入ってた。呆然とする幼馴染に手を差し出し、
「僕と一緒に行こう!」
なんて言ってしまった!やってしまった!
そっと幼馴染の顔を覗き込むと、俯いたまま黙ってしまった、失敗だ!
人ごみの中なのに静粛が4人を襲う気がした。
やがて、俯いた幼馴染から
「...リョウちゃん待ってた。」
と小さく呟いたように聞こえた。
そして彼女は、意を決したように
「行こっ!」
と言って手を握り返してくれた。ぼくは、小さく頷いて
「行こう!」
と話すと同時に一緒に駆け出していた。

残された二人は呆然と俺達を見ている。
(ごめんなさい、明日謝りますんで!)と心の中で呟き、僕たちは走り去っていった。

残された二人は呆然と立ち尽くす。
やがて...女の子の方は大笑いを始めてこう言った。
「先輩最高です!わたし目の前で人が振られるの初めて見ました!」
「うるせー!俺はまだ告白していないからノーカウントだ!」
そう言って、憮然とした先輩だったが彼女の楽しそうに笑う姿を見て、そんな事どうでもよくなってしまった。
ひとしきり笑った彼女はふーっと息をして、
「せっかくだし先輩、私とデートしませんか?傷心旅行も兼ねて?」
とニヤニヤしながら誘ってくる。
こいつ!と思いながらも、どことなく惹かれる彼女に
「傷心はしてないけどな!でも...まぁ一緒に周るか!」
と笑いながら二人で歩き始めた。
不意に彼女は、
「あーやっとボタンがきれいに止まったゎ」
と話す。
「なにそれ?」
と聞き返す先輩。
彼女は後頭部に手を組みながら歩き・・・やがて
「うーん、分かんない!」
と笑顔で答えた。
なんだそりゃ?と話してるふたりは、やがて人ごみの中に消えていった。

季節は秋。僕と彼女は家の近くの散歩道を歩いている。
幼稚園と公園をつなぐ静かな散歩道。階段から降りると町の商店街。
イチョウの葉が舞い落ちるベンチの一つに僕と彼女は座わる。
正面には大きな『トウカエデ』の木が僕たちを見守ってるかのように立っている。

少し寒いのか、彼女は僕の手を握りしめ、僕のコートのポケットの中に手を突っ込む。
息を吐くと微かに白い煙が出る。
「先輩たち、うまくいってるみたいだよ」
と僕が話すと、
「うん、友達も毎日とても楽しそう」
と夏祭りの時に置いていたふたりの事を話した。
「次の日ビクビクして謝りに行ったけど、先輩笑って許してくれてさ。」
と笑って話すと、
「友達は嬉しそうにありがとう!って言ってくれたよ」
と、彼女も笑って話してた。

先輩たちはきっとうまくいくだろう。

ふと、僕は彼女に尋ねた。
「ねぇ、前から聞きたかったんだけど...」
と僕が聞くと、彼女は何って顔で僕を覗き込む。
「夏祭りの時さ、僕が誘ったときに『リョウちゃん待ってた。』って言ったけど、あれは何だったの?いやさ、なんかとてもうれしい言葉だったんだけど意味がわかんなくって。」
僕が聞くと、彼女も
「うーん...何だったんだろうね、あれ?」
と彼女も笑いながら答える。
「...でも...なんか絶対言いたかった言葉だったんだよねぇ、わかんないんだけど?」
二人は不思議な気持ちになった。
暫くして彼女が
「行こっか?」
と聞いた。
そうだねと二人同時に立ち上がる。

冷たい風は二人を磁石のようにくっつける。

ひらひらと散るイチョウの葉は、まるで二人を祝福するかのように華麗に舞っている。

いま、4人の恋は動き出す。

もう、決して間違えないように。

そして、僕たちの2度目の恋が始まった。



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