そして、僕は2度目の恋をする。
そして、涼介は取り返す。
手元に配られた資料を元に、話は進められていく。





メンバーは正面に凌空・田丸・そして興信所の吉井、対面に高田・涼介・葵・そして涼介の知らない男の順で座った。



まずは興信所の吉井が調査内容を報告、役員構成や経営状況などを説明した。



社長の名前は「日野隆文」65歳。一族経営の二代目社長であり、現職の市議会議員でもある。社員の頃から親譲りの営業能力に長けており、社長になった今でも多くのマンション工事などを決めているようだ。



反面、金銭や女性関係はひどく、既婚者であったにもかかわらず、複数人の愛人を作り、秘書は常に仕事の打ち合わせや金銭・女性問題の火消しとで大忙しのようである。



最近副社長に任命された日野哲太には、経営の才能はなく女性にだらしがないところだけ似てしまっているようだ。ちなみに彼は愛人の子である。



他の経営陣は社長のイエスマンで固めている為、社長の提案=会社の決定となる。



経営状況はここ数年安定しており、今期も複数のマンション工事を着工している





「経営状況は悪くないよな?」受け取った資料と説明を確認しながら涼介は話す。皆も一同に頷く。



すっと凌空は立ち上がり、「では増山さん、お持ちの資料を渡してください。」と話し、葵の隣の男が封筒に入った資料を各自に配る。そして、その内容の説明を終えたとき、涼介・高田・葵は驚きを隠せなかった。



凌空が再び口を開く。「うちは電気工事店をやっていますが、実は4年前に父からサンホーム建設をやろうと思うが?と相談を受けました。初めての取引相手もあり、その際に僕の叔父である吉井さんにいろいろと調べてもらいました。その時柳川さんに紹介してもらった人が、サンホーム建設経理部に籍を置く増山さんなのです。」皆が一堂に葵と増山の方を向く。照れ笑いをしながら頭をかく葵の横で増山すっと頭を下げた。



「私は6年前にこの会社に入社しました・・・・・。」増山が説明を終えたとき、皆の表情は冷静さを装っていたが内心は驚いていたに違いない。



「この件は私と増山さん・田丸さんと吉井さんの4人で進めていきます。結果はヤフーニュースでも見て確認してください」と凌空が冗談交じりに占めた。ここで増山は一礼をして部屋を去った。





増山が部屋を去った後、高田は俺の出番とばかりにスマホを取り出し誰かに電話を始めた。



その間に涼介は葵の近況について聞いてみた。 



「あたしも今サンホーム建設で働いてんだよ。」の言葉には驚いたが、その理由にもさらに驚かされる「言ってなかったけど、私も社長と愛人の子供なんだよね~」と頭に腕を組みながら軽く話してくれた。



「まぁ、親父や腹違いの日野哲太とかマジで嫌いなんだけどさ、給料良かったしとりあえず務めてたんだわ。」(葵らしいな)と頷く涼介だったが、次の瞬間、姿勢を正した葵の言葉が涼介の眠っていたの怒りを再燃させることとなる。



「あいつらさ、他社に決まりかけてた工事の契約欲しさに親友の汐を利用しやがったんだよ!彼奴等ぜってー許せね!」そう言った葵の瞳は溢れんばかりの涙が溜まっていた。



「汐の奴、歓迎会の日に小須田からどんどん酒を飲まされてたらしくてさ、あいつそんなに酒強くねぇのによ!2次会で変な薬飲まされて、そのままホテルでレイプされて…目が覚めたら金が10万円封筒に入れておいてあったんだとよ!あいつ泣きながら部屋を出たって震えながら話してくれてよ。ちゃんと旦那に話せって言ったんだけど、これが涼介にばれたら私生きていけないとか言いやがって…その後知ったんだよ、あいつが枕営業をやらされていたのを。」



話し終えた葵は怒りに震えながら涙を流していた。涼介も悔しさのあまり涙を流していた。ただ、それは一人で苦しんでいた妻を助けてやれなかった自分の不甲斐なさに対しての方が強かった。



葵も汐を会社に誘ったのを後悔していたのだろう。後で聞いた話だが、葵は汐が別れた後も親身になって今後の復縁などの相談に乗ってくれていたようだ。しかしその相談も最近されなくなって心配していたとの事だった。



涼介は葵に日野哲太について聞こうとしたとき、入り口のドアが開き3人の男が入ってきた。



2人は屈強な男で、白の長袖シャツを着ており、腕全体に入った刺青はシャツ越しにでも浮かび上がって見える。



その間に挟まれた男は見覚えがあり、マッチ棒のような体に眼鏡をかけた弱々しい姿で口の周りには無精髭に包まれていた。



「お前たちは外で見張ってろ」高田は2人の男に指示を出し外に出した。そしてマッチ棒の男に「自己紹介はじめ!」と怒鳴ると、一瞬びくっとした男は「小須田正一46歳です!」と大きな声で挨拶をした。小須田正一、サンホーム建設の元営業課長である。





高田は言う。「今からこちらにいらっしゃる涼介様にすべての真実を話せ!こちらは裏が取れているので確認作業となるが、もし噓を言った場合は借金返済のための労働懲役を1年ずつ伸ばす、分かったか!」そのこと言葉で小須田は震え上がる。そして小須田はぺらぺらと喋り始めた。





「私はギャンブル依存症で、給料だけでは足らず、複数の消費者金融にも借金をしておりました!その支払いも滞りがちになり困っていたところを当時専務の日野哲太に助けていただきました!」



「彼曰く、俺の計画に協力するならお前を助けてやると誘われ喜んで協力しました!」



「彼は有明汐さんに惚れてたらしく、邪魔な涼介様を排除するため作戦を伝えてきました!」



「まず歓迎会の1次会で酒をたらふく飲ませ、2次会で睡眠薬を飲ませてホテルの一室に目隠しをして運びました!そこでマスクをかぶって待機していた日野哲太が彼女を犯し、私はそれを動画に撮っておりました!」



「終わった後、日野哲太から後は任せたと20万円を受け取り、私は汐さんに喋ったら動画をネットでばらまくと脅し、10万円を枕元に置いて帰りました!」



それを言い終わると同タイミングで涼介は小須田のことを拳でメッタ打ちにした。10発ほど殴ったところで高田に抑え込まれ涼介は我に返える。



小須田はフラフラになりながら立ち上がり、残りのことを話し始めた。



「あとゎ日野哲太がぁ連れてくるぅ客の相手をぉさせましたぁ。」



「車で送るときぃ彼女はぁいつもぉ泣いてましたぁ」



「涼介様にばれてからわぁ打ち合わせ通りぃすべての責任を取ってぇ退職しましたぁ」



「日野哲太はぁこれで汐は俺のものになるとぉ大笑いしてましたぁ以上ですぅ」



全てを話し終えた後、小須田は力尽き倒れその場に気絶した。





涼介は涙ながらに呟く。



「ごめん..ごめん汐、気付いてあげられなくてごめん、君がこんなに苦しんでいたのに責めてしまってごめん、そして、君が助けてほしかった時に君を信じられずに離婚を選んでしまって…本当に、本当にすまなかった」その後の涼介はただ蹲ってひたすら泣いた。



高田は涼介の元を離れ、床に転がる小須田を2人に運ばせたあと、葵と何か話している。



凌空は泣きむせる涼介の背中を摩りながら語りかける。



「涼介さん、もう少しの辛抱です!大切な奥さんは必ず取り返しますのでもう少しだけ一緒に頑張りましょう!」





この集まりから半年後、サンホーム建設は倒産した。





突然のサンホーム建設倒産は地元の人たちを大いに驚かせた。



巷の噂では、数年前から経営が急速に悪化し、自転車操業をやっていたのだが、メイン銀行から融資の打ち切りがあり、不渡りが2度発生しての倒産である、となっている。





涼介達はいま弁護士事務所にいる。凌空たちから現状況の説明が行われた。





まず、今回のサンホーム建設は「計画倒産」を狙って失敗したこと。



以前持ってきた増山の資料には、売り上げを盛られた正規帳簿のほかに、売上が原価や経費より少なく記載られた数年分の「裏帳簿」のコピーが添付されていた。弁護士の田丸はこれを受け取ると、2億円の融資依頼を受けたメイン銀行の担当者と打ち合わせを行った。



正規帳簿を信じて(当たり前だが)融資の稟議に入っていたが、決済直前にことが発覚し融資を防ぐことができた。



融資を得られなかったサンホーム建設は如何することもできなくなり、2か月後に敢え無く潰れた。ただし、融資の2億円自体は社長一族で持ち逃げしようとしてたようだが…。





下請け業者や、新たに建築を希望する施主達には、凌空たちが事前に説明をしておき、難を逃れることができた。



話を信じなかった業者や、汐を買春したオーナー達はもちろん放っておいた。



後日、工事代金の90%(数億円)をサンホーム建設に払っていたオーナー達が日野達に訴訟を起こすと聞いたが、そんなのどうでもいい話だ。オーナー達にはぜひ頑張って借入金を返しもらいたい。





そして、代表の日野隆文は不渡りになる数週間前から失踪、債券整理が終わるまでどこかに隠れているだろうと高田が話してくれた。





涼介にとって、本題はここからである。皆は一斉に席を立ち、挨拶もそこそこに解散し、各自は目的の為に動き始めた。





涼介たちを乗せた車が見覚えのある1件の家の前に止まる。



入り口には数人の黒スーツ姿が居て、高田と何やら話している。どうやら皆いるか確認しているようだ。



黒服たちが礼をすると高田が手を軽く上げて中へと通される。



インターホンを押すと、高田は元気よく話した。





「おーい哲太くーん!皆で遊びに来たよー!一緒に人生ゲームやろーぜ―!!」





なかなか辛辣な嫌味に涼介・凌空・田丸は思わず吹き出してしまう。



「サッカーの方がよかったか?」など高田がふざけていると、カチャリとドアが開いた。



「どうしたんですか?高田さん」生気のない顔で日野哲太が顔を出す。そして、その中に涼介の顔を見つけ、驚き、下を向く。



「いやー僕の大大大親友の涼介様が君とお話があるんだって。もちろん聞いてくれるよね~?」高田はにこやかに話しかけたが目は全然笑っていなかった。



ヒッと小さく声を上げ、そそくさと4人を部屋の中へ案内した。





応接室に案内されると高田が話し始める



「いまから哲太君に質問します!裏は取れてますが確認の意味です!嘘をつくとペナルティーとして君の大事なものが一つ一つ壊れていきますので気を付けてください!」と話し、質問を始めた。



「お名前と年齢は?」「日野哲太30歳です」



「お仕事は?」「元サンホーム建設の副社長です」



「うん?お仕事は?」「…..無職です」日野は膝の上にこぶしを握りながらそう答えた。



高田はうんうんと頷いて、目で涼介に合図する。



「汐と摩耶は?」涼介が尋ねると「ここにはいません」と小さな声で返事をした。



その瞬間、高田は席を立ち棚に飾ってある高そうなギターを持ち壁を叩き始めた。



「ロックだぜー!!」と叫びながら暴れる姿は涼介や凌空すらも狂気を感じた。日野は頭を抱え、小さな声で謝っている。田丸は無視して持参したPCを叩いている。



ボロボロになったギターを投げ捨て、再度席に座り直す。



「哲太君残念でした!間違えたので多分大事なものが壊れてしまいました!何度も言いますが嘘はいけません!裏は取れているのでほんとのことを言ってくださいね?」



高田の言葉に観念した日野は震えながら「2階です」と指を上に指した。



頷いた凌空は素早く部屋を出て2階へと向かう。まるでその言葉を待っていたかのように。





涼介の話は続く。



「汐と離婚してもらう」涼介は冷たく日野にそう言い放った。



はっとした日野は焦りながら答える。「待ってくれ、そっそれだけは勘弁してくれ!」



日野は懇願するように話す。その声が聞こえないかのようにカバンから離婚届を出す涼介。



「いやだ、いやだ、俺は絶対書かないぞ!」日野はたじろきながら拒否する。



そして、高田がまた話し出す。



「おや~?僕の大大大親友である涼介様のありがた~いお願いを断っちゃうんだ~?仕方ないな~」高田は続ける。「そういえばさ哲太君、僕の友達から1000万円借金してるよね?あ、利息が付いてるから1200万だったかな?今日返してほしいって玄関前にいるんだけど・・・呼んでいい?」この言葉で日野は崩れ落ちた。



涼介が渡した離婚届を憔悴しきった日野は記入した。



その途中、凌空が2階から降りてきて「二人共いましたんで無事保護しました、先に戻ります。」と挨拶をし、外へ出て行った。



記入が終わった離婚届を受け取ると、涼介はあらかじめ持参した1200万を渡し、日野は奪うようにそれを受け取った。弁護士の田丸は出来上がったばかりの契約書を渡し、日野のサインを受け取る。これですべてが終わった。



最後に高田が「全く大事なお友達がこんなに来てるのになーんで哲太君の奥さんはお茶も出してくれないのかなー?」と独り言を喋りながら立ち上がると、日野は狂ったように机に覆いかぶさって泣き始めた。



涼介達は無言でこの部屋を立ち去った。入れ替わりで黒服の連中が中に入っていく。





数日後、日野哲太は「粉飾決算」と「収賄容疑」で警察に連行された。





次の日の朝。





涼介が住むアパートの前に着いた車から2人の親子が下りてきた。



小さい影は早く会いたいのを抑えきれないのか、走って玄関に向かう。



インターホンの音を聞いた涼介はソファーからすっと立ち上がり玄関へと向かう。



そして、玄関を開けたとき小さな影は涼介に向かって飛び込んできた。





「パパただいまー!」



しゃがんで迎えた涼介はそのまま抱え上げる。





「おかえり摩耶!すこしおおきくなったか?」



飛びついた摩耶は部屋の中を見せてと奥の方へ行く。その後ろには女性が佇んでいる。





「おかえり、汐」



「ただいま、涼介君」





その挨拶を交わすと同時に、涼介は汐を抱きしめた。



「待ってた!この日が来るのをずっと待ってた!君に謝りたくて!また一緒に暮らしたくて!最愛の君をまた抱きしめたくて!」



涼介は泣きじゃくる。汐も泣きながら答える。



「怖かった!すべてを失うのが怖かった!でも…信じてた!涼介君ならきっと迎えに来てくれると!」そのあとの二人は、ただ、ただ泣き続けた。涼介の後ろでは摩耶が抱き付いて泣いていた。いつも静かな部屋の中に家族の声が響いた瞬間だった。





車で送ってきた凌空は、涼介の住む玄関を見つめていた。



やがて、家族が無事再会できたのを確認すると、凌空は一礼して車に乗り込んだ。





走る車の中で、凌空はポツリとつぶやく。





「涼介さんおめでとう、もう汐ちゃんを泣かせないでくださいね」と。
< 4 / 13 >

この作品をシェア

pagetop