狼とわたあめ


「今日は、来てないのかと思った」


先に言葉を発したのは黒田さんだった。


「あ・・・っと・・・今日は、甘いの食べたい気分じゃなくて・・・」


自然に振る舞いたいのに、声が勝手に尻すぼみになっていく。


「・・・・・・そう」


すぐに訪れる沈黙。


何か話さないと。いつも何話してたっけ私。


「久しぶりだな」


また先に口を開いたのは黒田さんだった。


「・・・・・・はい、お久しぶりですね」

「・・・・・・朔日参り、辞めたの?」

「いえ、行ってますよ。・・・ただ、朝早く起きれなくなっちゃって・・・会わなくなりましたね」


できるだけ明るく言ったつもり。


無理があったかもしれない。嘘だと気づかれているかもしれない。


でも、それでもいいかと思った。


「・・・・・・彼氏でもできた?」


っ、


これは今の私にはちょっときつい。


なんでそんなこと聞くの・・・なんて、黒田さんにはこっちの事情なんて関係ないもんね。


久しぶりに会った人へのごく普通の質問だから。


「ふふっ、秘密です」


今の私にできる精一杯の虚勢。


いるという嘘も、いないという真実もどちらも伝えたくなかった。


「・・・・・・」


黒田さんは無反応。

< 12 / 17 >

この作品をシェア

pagetop