フォーチュンクッキー
「じゃあね、杏ちゃん」

 あたしの言葉にコクンと頷いて、元気いっぱいに杏ちゃんは手を振ってくる。

荷物を車に詰め込んで、そのまま足早に去ってしまった親友を見送った。


 周りでは、大半の人たちが親御さんが迎えにきてくれていた。


 うらやましくなんか…。

 そんなこと思うほどあたしには余裕なんてないから。


 唇をきゅっと結ぶと、もう一度気合を入れてかばんを持ち上げた。


「未来、帰ろっか」

 後ろから、いまだ聞きなれない声がして振り返る。

 そこにいたのは雛太だった。


「…うん」



 声変わりを果たした雛太は、いまでよりなんだかオトナっぽく見えてしまう。

 背もまた少し伸びたせいもあるかも。


 隣で歩く雛太をこっそり見上げた。

「た…楽しかったね!」

 あたしは目も合わせず、足元をみてできるだけ明るく声をかけた。


「そうだね」

 やっぱり聞きなれない声で短く返事が返ってきた。


 花火大会以来、きちんと話ができなくて、旅行中もなんだか気まずい雰囲気だった。

 多分みんなで撮った写真も、そんな顔しか写ってないんだと思う。

現像がちょっぴり不安。




 まもなく商店街の入り口を迎える頃、雛太はピタリと足を止める。

 ほんのり暑さが残るこの時期は、空気を冷ますように少し冷えた風が吹きぬけた。

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