フォーチュンクッキー
 賑やかなひとときは、あっという間に過ぎていく。

夜も更け、暖房だけではなくそれぞれの熱気が店内のガラスを白く曇らせる頃。

おじさんはいつの間にかマスターとビールを交わしており、真っ赤な顔と千鳥足を携えていた。

誰がどう見たって酔っ払いだ。


「ほら、お父さん。もう帰るよ?」

 身体を揺するチビ助に、ニタァと笑ったおじさんは、そのまま覆いかぶさるように身体を預けていた。

なんだか、オレにはおじさんが嬉しそうに見えた。


「そぉ〜だなぁ、未来はぁー、こおんなに大きくなったもんなぁ〜」

「わかったってば!しっかりしてよ……」

 さらに小さなチビ助に体重をかけようとしていたおじさん。

すっと、その間に身を滑らせてオレは咄嗟に受け止めた。


「…送っていきますよ」

 そういうと、アルコールの匂いを漂わせながら、静かに微笑む。

やっぱり親子だ、と思った。


「じゃあ、未来。また明日ね!」

「うん、杏ちゃんも気をつけて帰ってね」

 にっこりとから揚げを頬張った杏ちゃんは、コートを着込んだチビ助に向かってぶんぶんと手を振っていた。


 年明けから騒がしたすれ違いも、今となってはすっかり思い出になったのだろうか。



 どんよりと分厚い雲が夜空に停滞し、冷たい空気は肌にピリピリ刺激する。

吐く息も一層白く、静けさもまた、寒さを際立てた。


 さっきまでふらりふらり、と千鳥足だったおじさんも、寒さで酔いがさめてきたのか、次第に足取りがしっかりしていった。


 そのせいで何故か静かに歩く三人。

目的地は一緒のはずなのに、なんだか奇妙な光景だっただろう。

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