フォーチュンクッキー
 なんとなく、手持ち無沙汰な気分になってしまったその日の午後。

変わらず、お父さんはまだ仕事に熱中したまま。


 パソコンの隣においてある凛子さんの写真を見つめながら、すこし前を思い出していた。



 ────そういえば、アノヒトはどうしているのだろうか…? 


 そんな疑問がよぎり、学校の制服から普段着の一番楽なトレーナーにジーンズという格好に着替えていた。



 お父さんが行ったという喫茶店にいくために。

クッキーをあげたお兄さん、というのは、あの『彼』のことなのか。


ただ、確かめたかっただけ。



 場所は忘れていなかった。

我が家も御用達のあじさい商店街を抜け、すこし静かになった道沿いをすこし歩く。

すると、小さな看板とともに大きな窓ガラスを携えた喫茶店があるはずだ。


 歩いているだけでぽかぽかしてくるこの陽気のせいなのか、妙にドキドキしながら進んだ。

まるで知らない道を散策しているかのよう。



 記憶を辿るように見つけた喫茶店は、あの時となんら変わっていなくて。

恐る恐る、窓ガラスからこっそり店内をのぞいてみる。


けれど、カウンターの向こうにいるのは、お父さんと同じ年齢くらいのヒゲの生やしたおじさんだ。



 三年前、ここで見かけた人の姿はそこにはなかった。


 やっぱりいるわけないか───。

何に期待をしていたのか自分でもわからなかった。


あの温かい雰囲気に、すこしでも触れてみたかったのかもしれない。

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