夜這いを命じられたら、国王陛下に愛されました

囚われの身リオン・スペンドール

14.




「‥‥‥」

 目覚めたら檻の中だった
 比喩でもなんでもなく、目が覚めたらそこは檻の中だった

 おかしい
 神妙な顔でリオンは瞬きをする
 ここは檻の中。はい、その通り。座っている寝台には紗が降りており、下はふかふか。周囲は薄汚れているわけでもなく、暗がりな訳でもない。つまり、貴人用の牢。それは理解できる
 が、自分は新王とやらと顔も合わせていないはずだ。正しくは寝ていた。眠りこけていた
 リオンはあっさりと自分が眠りこけていたことを認め、緩慢な仕草で寝台から降り立つ。当然のことながらここは離の自室ではなく、普通の寝室というわけではない。窓には嵌め殺しの窓。そして黒い柵

 するするとその柵を撫でてみる

「‥‥すべすべ」

 すべすべだった。そして冷たかった
 その柵は己が掴むに相応しいというようなちょうどいい太さの柵で握りやすかった。だからどうということもないが、リオンは変に感心した。これが牢というものか。なるほど。やはり実物・実際の体験はなかなかどうして面白い心持があるというもの

 ふあとリオンがあっさり寝台から出るほど満足いく睡眠を摂ったというのに出た欠伸を素直にし、リオンはとりあえず寝台に戻ろうと窓に背を向けた

「――あ」
「?」

 欠伸で閉じた目を聞こえた声と共に開けると、扉の近くには一つの三つ編みに髪を結った侍女さんが居た。開閉音は聞こえなかった。とりあえず、第一村人ならぬ第一城人発見だが、リオンは歓喜することなく落胆に息をついた

「‥‥‥はぁ‥‥」
「!‥ッ~‥‥‥!」

 ジュリアじゃなかった
 リオンは早くも望郷の思いに駆られ、少し高さのある寝台に膝をつく
 なぜか、リオンの物憂げなため息に頬を紅潮させた侍女は完全に置いてけぼりの行動だった


「――! えっ、あ、ちょっと、ちょっと待ってください!」

 肩まで寝具をかけ、寝る態勢に入ったリオンにようやく我に返った侍女が寝具をはぎ取りに来る
 リオンは胡乱げに半目を向けた。なに?と瞳は雄弁だった

「あっ、あの!起きてください!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥いや」

 たっぷり考えてリオンは告げた
 もうこの状況なんなの説明し云々とか置いておいて、単純に不貞腐れていた。なにがどうして、気が進まない我が父上様の悪行に巻き込まれ、寝て起きたらこんな見知らぬ部屋の中でジュリアが居ないとかふざけてるのか? なかなかに暴君のような思考だが、リオンはこれが常だった

「っ、あ~‥‥そう、ですよね。わ、っかりました‥‥」
「‥‥‥」
「あのぉ!お願いですから、寝ないで話しだけは聞いてくれませんか‥‥」

 なにか堪えるようにぷるぷると震えてから寝具を掴む手を緩めた侍女にリオンは満足気に小さく頷き、顔を反対側に向ける
 すぐさま、侍女が後生ですから…とリオンに訴えるので夢の世界再び…は阻まれてしまったが
 今更ではあるが、囚われの身(仮)であるリオンに敵の魔手(仮)である侍女がこんなに必死に訴えるのかは全くもって不可思議極まりないのだが、この空気感が見事に違和感を吹き飛ばしていた

「はぁ」

 リオンは溜息を吐いて、諦めた様にさっさと話してと目線で促した。なんならごはんもってこい

「あっ、ご飯、ありますよ!
 そうですよね、お腹空いてますよね! もうひやひやしましたよ、こんな時間になっても起きなかったので死んだのかと…」
「‥‥‥‥いま、なんじ?」

 こんなに時間になっても、と侍女が言うので窓の外をちらりと見てから訊ねた
 太陽は高く昇っている。起きるのになんらおかしくはない時間帯のはずだ

「昼を過ぎたころです、お嬢様」

 あぁ、なんだ。じゃあ、大して遅くもないじゃないか
 そんな顔で一人納得していると侍女は不思議なものを見るような顔でもしながらサイドテーブルに軽めの食事を並べる
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