ワインとチーズとバレエと教授

【交差する三人】壊れた天使




「えぇ、とてもいい先生だったわ」

理緒はピンク色のバスクリンを入れた
湯船に浸かりながら、亮二に電話をかけていた。

「だけど、とても目つきが鋭くて
ちょっと怖い感じ。
いかにも、ザ・精神科教授って
オーラが出てたわ」

「あは、あいつは学生時代から
ずっと、ああなんだよ、
真面目で、ピシッとしてるだろ?」

ビールの缶でも開けたのか
プシュと音と共に、亮二の笑い声が聞こえた。

「えぇ、威厳を感じたわ」

理緒の素直な言葉に
亮二は「あいつらしい」と
電話越しに笑っていた。

理緒も、今日の診察を思い出し
電話越しに微笑みながら
足をポチャンと動かした。

少しの無言ー

「なぁ、これから
三連休があるだろう?」

亮二が少し、
かしこまって言った。

「えぇ、そうね」

「オレ、有給を消化しなきゃ
いけないんだ、当直もないし、
それで、連休一日目は、ちょうど
ロイヤルバレエが来てて
演目はロミオとジュリエット」

「まぁ…」

理緒の嬉しそうな声が聞こえた。

「二日目はサラ・ブライトマンが
来日していて、コンサートがある、

三日目は
東京フィルハーモニー交響楽団の
シューマンがサントリーホールで
やるらしいのだけど、理緒、行くか?」

亮二は遠慮がちに誘った。

「本当に?嬉しい…
えっと、チケットは…?」

「ああ、もう取ってある」

理緒の返事がYESだと想定して
亮二はチケットを取ったらしい。

「ありがとう」

理緒の顔は見えないが
多分、喜んでいるだろう…
そう、亮二はそう信じたー

「ウチから東京まで遠いいから
ホテルを取った、
シャングリ・ラはどう?」

「…ありがとう」

でも、理緒の声のトーンが
下がっているのを感じた。

やはり、理緒との溝は
埋まらないようだ。

誰にも言えない
理緒との溝ー

いつから、
こうなってしまったのだろうー

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