【コミカライズ】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか? 〜破局寸前で魅了魔法をかけてしまい、わたしのことが嫌いなはずの婚約者が溺愛してくる〜

04_魅了魔法にかかってしまった理由


 クラウスが帰って行った後。疲労困憊したエルヴィアナは重い体を引きずるように部屋に戻った。

 制服を脱ぎ、部屋用のドレスに着替える。鏡台の前でメイドのリジーに髪を梳かしてもらいながら、大きなため息をついた。

(大変なことになってしまったわ)

 別れ際のことを思い出して、またかあっと顔が熱くなる。

 クラウスは、嫌いな相手のはずのエルヴィアナに口付けを要求し、あまつさえ自分も間接的にキスを落として帰って行った。
 婚約者の豹変ぶりにエルヴィアナは当惑していたけれど、リジーは心底嬉しそうに言った。

「お嬢様、良かったですね……! ようやくクラウス様との関係が修復できて。仲の良さそうなご様子を見れて、凄く嬉しいです」

 主人の長い黒髪を梳かしながら、涙ぐんでいるリジーが鏡越しに見えた。

「クラウス様を守って魅了魔法の呪いにかかったこと、ようやく打ち明けられたんですよね?」
「……違うわ。話してない。クラウス様にもその魅了魔法をかけてしまったみたいなの」
「ええっ!? い、今までは問題なく過ごせていましたのに……」

 リジーはブラシを持っていた手を下ろし、残念そうに肩を落とした。

 魅了魔法のことをクラウスに話せていない理由。それは、この能力が目覚めたきっかけにある。



 ◇◇◇



 13歳のとき。クラウスとエルヴィアナは毎年恒例の国王主催の狩猟祭に参加した。大人たちの狩猟を遠くから見るだけだったが、退屈しのぎに王館裏の森を散歩することにした。

「――手」

 エルヴィアナは、湿った土を踏み歩きながら、おもむろに手を差し伸べる。

「はぐれないように、繋いでいてあげる。別に、クラウス様と手が繋ぎたいとか……全然そんなんじゃないんだからね」
「ふ。それはありがたいな」
「何がおかしいのよ。笑ったりして」
「いや、何でも」

 エルヴィアナは昔からふてぶてしくてあまり素直ではなかった。はぐれないようにするためではなく、本音はただ彼と手を繋ぎたいだけ。クラウスは、その心を見抜いたように笑った。
< 12 / 112 >

この作品をシェア

pagetop