【コミカライズ】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか? 〜破局寸前で魅了魔法をかけてしまい、わたしのことが嫌いなはずの婚約者が溺愛してくる〜


 広間の外に出て、人気のない廊下の片隅のソファに座らされる。クラウスは王館の使用人に声をかけて、救急箱を持って来た。靴擦れして傷ついた足の皮膚を、丁寧に治療していく。

「気に入らないな」

 ふと呟かれた言葉に、どきっと心臓が跳ねる。きっと、取り巻き令息たちといたせいで気分を悪くしたのだ。

「……ごめんなさい。わたし、うまく彼らのことをかわせなくて」
「――どこを触られた?」
「え……?」

 熱を帯びた眼差しがエルヴィアナを射抜き、ごくんと喉を鳴らす。彼はエルヴィアナの細くしなやかな手を取り、腕に唇を落とした。びくっと身体を跳ねさせれば、彼はこちらを見上げて言った。

「ここか?」

 クラウスはそのまま顔を少し下にずらして、エルヴィアナの手の甲や指に、ちゅ、ちゅ、と唇を落とした。まるで、他の男に触れられたところを上書きするように。どきどきと脈動が加速して、声がうまく出せない。

 手だけでなく、足のすねにまで音を立てて口付けをするクラウス。

「そんなとこ、触られてないから……!」

 訴えても彼はやめてくれない。誰かに見られるかもしれないのに。
 靴を脱がせて足の甲にまでキスしようとする彼に、もうやめてと懇願すれば、怒ったように鋭い眼差しをした彼が顔をこちらに向けた。

「クラウス様……――嫉妬、してる?」

 恐る恐る尋ねると、彼は即答した。

「当たり前だ」

 クラウスが切なそうに眉をひそめるのを見て、胸がきゅんと締め付けられた。
 クラウスはそのままエルヴィアナの頬に手を添え、試すように呟いた。

「エリィは押しに弱すぎる。もっとちゃんと抵抗しないと――何をされるか分からないぞ」

 唇を親指の腹で撫でながらわざとらしく口角を上げる彼。まるで野生の獣に狙われる獲物のような気分になった。熱を帯びたつつじ色の瞳が、エルヴィアナのふっくらした唇を捉えていて……。

「分から――ないわ」

 震える声で挑発するように言い返す。心臓が早鐘を打っていて、うまく頭も回らないけれど、これだけは確かだ。掠れた声を絞り出すように、本音を口にする。

「クラウス様に触れられるのは、嫌じゃ……ないから」
「…………!」

 クラウスの瞳の奥が揺れた。その直後、温かいものがエルヴィアナの唇に触れた。


 ――シャンデリアの灯りが、白い壁に二人の影が重なる様子を写していた。

< 54 / 112 >

この作品をシェア

pagetop