【コミカライズ】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか? 〜破局寸前で魅了魔法をかけてしまい、わたしのことが嫌いなはずの婚約者が溺愛してくる〜


(そういえばクラウス様。服についていた糸ぼこりを取って差し上げた日も正確に記憶されていたわね)

 この人はどれだけエルヴィアナとの思い出を細かく記憶しているのだろう。愛が重いし、記憶力がよすぎる。もっと違うところで能力を発揮したらどうなのか。

「なら、わたしの得意なお菓子を何か作っていくわ」
「楽しみにしておく」
「これからは……クラウス様の好きなものを沢山教えてちょうだい。もっとあなたのことが――知りたいの」

 真っ直ぐに彼のことを見つめれば、彼の美しい瞳の奥が揺れた。

「エリ、」

 すると、りんごをカットし終わったリジーがそれを皿に盛り付けて立ち上がった。

「ご馳走様でした。邪魔者は退散しますのでごゆっくりどうぞ〜」

 会話につい夢中になっていたが、他人に聞かせるにはだいぶ恥ずかしい内容を話していたことに気づく。退出していくリジーの後ろ姿を見送りつつ、気まずくなったエルヴィアナは俯き、無心でカットされたりんごをひと口フォークで口に運んだ。みずみずしくて甘い。

「わたし……果物の中で一番りんごが好き。苦手なのはいちぢく。食感がだめで。クラウス様は?」

 好きなものも苦手なものも、もっと知りたい。色んなことを共有したい。

「ぶどうだな。砂糖とレモン果汁で煮詰めたコンポートを夜食に食べる。苦手なものは特にない」
「好きな料理と野菜は?」
「海鮮が好きだ。野菜は大半が好きだが、ピーマンとトマトだけはどうも……」
「ふ。子どもみたいね」

 ピーマンやトマトを前にして渋い顔をしているクラウスを想像したら、なんだかおかしくて笑ってしまった。
 一問一答形式で、次々に質問を投げかけていけば、彼は真剣に答えてくれた。

 もうひと口、りんごをフォークで刺して口に運ぼうとしたとき――。

「俺が一番好きな人は、エルヴィアナだ」
「…………」

 フォークを持ったままぴたりと硬直する。

「ひと言も聞いてないけれど」
「一番好きな瞬間は、エリィといるときだ。とても心が安らぐ。君を見ているだけで癒される」
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