交際0日ですが、鴛鴦の契りを結びます ~クールな旦那様と愛妻契約~
一織さんは、両親は自分に関心がないのだと言っていた。
もしも、似た者親子が互いの気持ちを伝えきれず誤解が生まれていただけなんだったら。
個室に入って、一織さんの顔を見たお義母様の表情が浮かぶ。
息子を心配する母親の顔だった。
なんとか、深山家が今からでも良い関係を築けるように、私にできることはないだろうか。
「小梅さんは、ご実家が定食屋さんを営んでいらっしゃるんですってね?」
お義母様が言う。ビジネストークでも始まりそうな雰囲気だけど、私はにこりと笑って返す。
「はい。 両親が定食屋を開くのが夢で、30年ほど前に」
「そうなの。一度お伺いしてもいいかしら? 小梅さんのご両親にもお会いしたいわ」
結婚を決めてからが早かったから、両家顔合わせなるものもすっ飛ばしてしまっている。今日やっと結婚のご挨拶ができたばかりだけれど、深山家と古嵐家の交流も当然必要だよね。
「是非いらしてください! おすすめは唐揚げ定食です。醤油ベースのタレに漬け込んで作る鶏の唐揚げは絶品だとよく言っていただけるんです。 お義父様もご一緒にいかがですか?」
ただの宣伝活動みたいになってしまった。 つい熱が入りすぎたかと思ったが、気分を損ねたりはしなかっただろうかと内心で焦る。
「そんな風にお誘い頂いたら、行かないわけにはいかないわね。ねぇ、洋一さん」
「ああ。今度ふたりでお邪魔させてもらおう」
「飲食店だからと偵察しようなんて思わないでくださいね」
口を挟んだ一織さんのなんとも刺々しい言葉に内心苦笑する。
「何を言う。私は公私混同するような人間ではないとおまえはよく知っているだろう」
しん、と静まり返るハイクラスの個室。ダメだ、こんな緊張しきった雰囲気では関係修復どころではない。
まずは、空気を柔らかくしなきゃ…
私はこの場をどうに明るくするのに奮闘した。
そうして会席料理の甘味が運ばれてくる頃には、最初に比べたら幾分か打ち解けられた、と思いたい。
途中、何度か一織さんの鋭い一言にピリリと空気が張り詰めたけれどね。
「小梅さん、この栗を使ったスイーツ、とても美味しいわよ」
「本当ですか? …わ、ほんとだ美味しい!」
私とお義母様はお料理を堪能する。相変わらず表情の変化はあまりないけれど、声色が優しいし、お義母様の方からも話を降ってくださるから怖くないんだよね。
あ、みかんも美味しい…
なんて舌鼓を打っていると、聞き馴染みのある着信音が聞こえてきた。
一織さんの会社用のスマホだ。
もしも、似た者親子が互いの気持ちを伝えきれず誤解が生まれていただけなんだったら。
個室に入って、一織さんの顔を見たお義母様の表情が浮かぶ。
息子を心配する母親の顔だった。
なんとか、深山家が今からでも良い関係を築けるように、私にできることはないだろうか。
「小梅さんは、ご実家が定食屋さんを営んでいらっしゃるんですってね?」
お義母様が言う。ビジネストークでも始まりそうな雰囲気だけど、私はにこりと笑って返す。
「はい。 両親が定食屋を開くのが夢で、30年ほど前に」
「そうなの。一度お伺いしてもいいかしら? 小梅さんのご両親にもお会いしたいわ」
結婚を決めてからが早かったから、両家顔合わせなるものもすっ飛ばしてしまっている。今日やっと結婚のご挨拶ができたばかりだけれど、深山家と古嵐家の交流も当然必要だよね。
「是非いらしてください! おすすめは唐揚げ定食です。醤油ベースのタレに漬け込んで作る鶏の唐揚げは絶品だとよく言っていただけるんです。 お義父様もご一緒にいかがですか?」
ただの宣伝活動みたいになってしまった。 つい熱が入りすぎたかと思ったが、気分を損ねたりはしなかっただろうかと内心で焦る。
「そんな風にお誘い頂いたら、行かないわけにはいかないわね。ねぇ、洋一さん」
「ああ。今度ふたりでお邪魔させてもらおう」
「飲食店だからと偵察しようなんて思わないでくださいね」
口を挟んだ一織さんのなんとも刺々しい言葉に内心苦笑する。
「何を言う。私は公私混同するような人間ではないとおまえはよく知っているだろう」
しん、と静まり返るハイクラスの個室。ダメだ、こんな緊張しきった雰囲気では関係修復どころではない。
まずは、空気を柔らかくしなきゃ…
私はこの場をどうに明るくするのに奮闘した。
そうして会席料理の甘味が運ばれてくる頃には、最初に比べたら幾分か打ち解けられた、と思いたい。
途中、何度か一織さんの鋭い一言にピリリと空気が張り詰めたけれどね。
「小梅さん、この栗を使ったスイーツ、とても美味しいわよ」
「本当ですか? …わ、ほんとだ美味しい!」
私とお義母様はお料理を堪能する。相変わらず表情の変化はあまりないけれど、声色が優しいし、お義母様の方からも話を降ってくださるから怖くないんだよね。
あ、みかんも美味しい…
なんて舌鼓を打っていると、聞き馴染みのある着信音が聞こえてきた。
一織さんの会社用のスマホだ。