交際0日ですが、鴛鴦の契りを結びます ~クールな旦那様と愛妻契約~
「恥ずかしいのだけど、私たちは一織が幼い頃から仕事ばかりしてきたわ。そのせいで、あの子はなんでもひとりでできるようになって、周りもそれを当たり前だと評価するようになった」

一織さんの持つ、大企業の御曹司という肩書き。そして重圧。彼のお祖父様と同じように、期待に応えるため幼い頃から努力してきたのだろう。
彼の厳然としていて常に冷静な姿勢は、トップに相応しいとも言えるが、冷淡にも見られてしまう。そうならざるを得なかったとも言えるのだ。

「私たちも、親でありながらめいっぱいの愛情を与えてあげられなかった。 寂しい思いをさせてしまったと思っているわ。一織に言わせたら、何を今更と思うでしょうね。 それでも、私たちは…」

伏し目がちのお義母様に、横で何も言わずに神妙な顔つきのお義父様。
私はたまらず口を開いた。

「今からでも、遅くないと思います。私は、お義父様とお義母様とこうして話せて嬉しいですし、四人で食事をしたり、出かけたり…幹事は任せてください!」

とは言っても、一織さんの意志を無視して振り回すわけにはいかないので、彼と要相談でやっていこう。
私が行きたいと言ったら尊重してくれる人だから、それがきっかけでご両親なりの愛情に気づけたらいいな。

深山家に笑顔が増えるのを、微力ながらお手伝いさせてもらおう。それを間近で見られるなんて、とても幸せなことだと思う。

「一織の、あなたを見る目…あんなに優しい表情のあの子は初めて見たわ。今日こうして、一織と小梅さんに会えたのも、あなたのおかげよ。 本当にありがとう。息子と結婚してくれて、お嫁に来てくれて…」

「私からも礼を言わせてくれ。妻が息子に会えないのを寂しがっていたからな。ありがとう」

「そんなこと言って。あなただって深山グループの会長という立場を使って逐一一織の近況を調べていたではありませんか」

お義父様はツンデレってわけね。
またもやお義母様にびしっと言い返されて、お義父様はバツが悪そうに顔を逸らす。

ご両親は、決して一織さんに興味が無いわけじゃない。
不器用な親子の積年のすれ違いが今、徐々に解れようとしている。




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