冷徹エリート御曹司の独占欲に火がついて最愛妻になりました
「莉子ちゃん!」

泣いてしまい、席に戻れない莉子は階段の踊り場にいた。

「…ましろさん……ましろさぁん……」

莉子は茉白に抱きつくと、胸に顔を埋めて泣き続けた。
茉白は何も言わず、(なだ)めるように背中をポンポンと叩いた。


「ましろさん…もどらないと、怒られちゃう…」
しばらくして落ち着いた莉子が言った。

「そんなこと気にしないで。…それより、辞めるなんて嘘だよね?取り消しますって言いに行こ?」

茉白の言葉に莉子は首を横に振る。

「もうむりです…」

「え…」

「あの人…」

「影沼さん?」
莉子は頷く。

「茉白さんがAmselに行くようになってから、茉白さんがいない日にあの人が出社するようになって…いつも営業を集めて毎日の受注金額の目標を言わせて—」

「え…?」

「それに届いてない日があると、みんなと…社長の前で目標に届かなかった理由と反省の言葉を言わせて…吊し上げるみたいに…」

「え…嘘でしょ?」
自分の知らない話に驚く茉白に、莉子はまた首を横に振る。

「茉白さん、知らなかったんだ…」
莉子はどこか安心したような表情になる。

「先月の受注が増えたのは、あの人のやり方が良いんじゃなくて…みんなが無理矢理お店に頼んで納品したんです。後々返品してもいいとか、納品の金額を割引くとか…あんなの、お店に嫌われてすぐにダメになるって思います…」

茉白は莉子が言っていることが信じられなかった。
莉子を信じられないわけではなく、自分の知らない間にLOSKAがそんな状況になっていたことが信じられない。
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