冷徹エリート御曹司の独占欲に火がついて最愛妻になりました
「なんでそんなに機嫌悪そうなわけ?」

茉白を降ろした車の中で、米良が後部座席の遙斗に言った。

「べつに」
遙斗は頬杖をついて窓の外を眺めている。

「そんな顔するなら遙斗も名前で呼べばよかっただろ?」

「俺はべつに…」

「ふーん。でも遙斗があんな風に他人を褒めるのは珍しいよな。」

「俺は本当のことしか言わない。」

ついさっき、本音を隠したように「べつに」と言っていた遙斗の言葉に、米良は苦笑いを浮かべた。

「20代であれだけできる後継者がいれば、LOSKAは持ち直すんじゃない?」

「だといいけど。経営って不測の事態が起こりまくるからな。」
遙斗は自分の経験を思い出すように言った。

「その時は力になってあげたらいいだろ?」

「………」

無言になる遙斗に、米良はまた苦笑いをした。



(信じられないことがいっぱいの一日だった…)
シャワーを済ませた茉白はベッドの中で今日一日のことを思い出していた。

(雪村専務から電話がかかってきたのもびっくりだったし…)

(OEMの話もびっくりだったし…)

(あんな雲の上の人と普通の居酒屋で食事したのもびっくりだったけど…)

(泣いちゃって、慰めてもらっちゃって…雪村専務って言葉は厳しいけど、なんていうか…まっすぐで優しい人って気がする…ハンカチも貸してくれ—)

「あ!!」

(やばい、ハンカチ借してもらったんだった!洗濯しなきゃ!!)

茉白は起き上がり、急いで洗濯機を回した。

「高そうなハンカチだからいつもの100倍丁寧にアイロンかけなくちゃ…」
茉白は独り言を言った。

(…ワニ、覚えててくれたし、商品になるのを楽しみにしてたなんて思わなかった。あれが一番びっくりした!)

回る洗濯機を見つめながら、茉白はまた「ふふっ」と思い出し笑いをした。

(どういう商品がいいんだろう…せっかくだから雪村専務も使えるようなものがいいなぁ…ポーチじゃないし…ネクタイはLOSKAの商品て感じじゃないし…)

茉白の頭にはあれこれワニの商品企画が浮かんでは消え、また思い浮かんでいた。

(しっかり休めって言われたけど…眠れないかも。)
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