天使の受難 アレクサンドラとグルシア(魔法の恋の行方・シリーズ10)

大魔女アレクサンドラ


グルシアこと、漆原要(うるしばらかなめ)は車から降りた。

仕立てのいい三つ揃いのツイードのスーツ、
黒革のアタッシュケース、どこからみても品格のある紳士、
背も高く、姿勢もいい。

壮年というにはまだ早いが、青年でもない。

黒縁眼鏡を持ち上げるように、
触れてから周囲を見回した。
東京郊外、
まだ緑が豊かで、大学がいくつかある文教都市だ。

指定されたマンションは新築で、
周囲も厳重警備が行き届いている。
魔女たちの奪還、襲撃もありうるから、教会に近い場所がいいと選定された。

4階の402号室、
そこにアレクサンドラは来ているはずだ。
グルシアは402の鍵を開け、
玄関口で立ち止まった。

邪悪な臭いがしない。

魔女は、特有の臭いを持つ者が多いのだが。
それとも高位の魔女は、臭いまでもコントロールするのか?
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