天使の受難 アレクサンドラとグルシア(魔法の恋の行方・シリーズ10)
その瞬間、
グルシアの黄金の剣が投げられ、リリカの黒いナイフが吹っ飛んだ。

「あらぁ、コワイお顔、しちゃって、やだ、もう一人来ちゃったの?」

リリカは両手を上げて、降参とばかりに、塀の鉄柵の上に立つサリエルを見た。

サリエルは緋色の翼を広げて、いつでも飛びかかれるよう、片膝をついた姿勢をとった。

「あら、こんにちは、緋色の天使様、ああ、でも私一人で、お二人を相手にするのは、ちょっとね。
お名残り惜しいけど、今日は、
さよならですわ」

リリカの姿が、あっという間に、黒煙に包まれた。

「追うか?!」
グルシアは、サリエルを見上げた。

「サンドラちゃんの対応が先だ。
聖別された領域から、急に邪悪なオーラを浴びたのだろう。ショックを受けている」

魔女はマンションの入り口で、頭を垂れてしゃがみこんでいた。

「大丈夫かっ!」

グルシアが、魔女に駆け寄った。

「頭がぐらぐらする・・けど、大丈夫だ」

「ちょい、マズイな」

サリエルがつぶやいた。

「別の大魔女がここまで、ででばって来ているとは。
ニンゲン界で何かやらかす前に、長老は早く対応しろと言うだろうね」

グルシアは、渋い顔つきのサリエルを見た。
対応・・
それは封印措置を、早急に取れということだ。

「僕は、すぐに長老に連絡する。
判定結果と大魔女の接触の件を、報告しなくてはならないからね」

サリエルは、緋色の翼を閉じるようにして身を包み込むと、すぐに消えた。

「俺に捕まれ」

グルシアは手を差し出したので、魔女はその手を取った。

そして、グルシアの腕にすがるようにして、ゆっくりと立ち上がった。
< 57 / 67 >

この作品をシェア

pagetop