天使の受難 アレクサンドラとグルシア(魔法の恋の行方・シリーズ10)
「ワインの香りがすごいよ。
アンタは天使じゃなくて、バッカスだね」

「何があっても、俺から離れるな・・」

グルシアはそう言って、大きく息を吸った。

魔女はうなずいた。

「もし・・失敗したら・・ワインを作るブドウ畑に埋めて欲しい」

「絶対に失敗はしない!!俺を信じろ!」

その言葉に、
魔女は目を細めて微笑み、ワイングラスをグルシアの唇に触れるように傾けた。

濃い血の色のワインが、グルシアの口に注がれる。

「アンタと会えてよかった。ありがとう。愛している・・」

魔女はグルシアの両頬をはさむように、指を当ててその唇に触れた。

これは聖なるキスだ・・
グルシアは目を閉じた。

暗闇の中で、青い炎の軌跡が、幾重にも燃え広がる。

口の中のワインが、魔女に注がれた。

ゴクン

魔女が、飲みこんだのがわかった。

魔女はそのまま、首に腕をまわして、グルシアに抱きついていた。

グルシアは、魔女の息遣いを感じていた。

魔女の体は、青い浄化の炎の渦に包まれ・・

その炎は驚くほど冷たく、ワインの香りがする。

冷たい炎の中で、魔女の体が凍りつくように冷えていく。

バサバサバサ

大きな翼の風切り音が聞こえる。

「おおーーい、おい、お二人さん、お楽しみプレイの最中、申し訳ないんだけどさ」

その声に、ぎょっとして、グルシアが目を開けると、

目の前にサリエルが、気まずそうに腰に手を当てて立っていた。

「徴(しるし)をつけたぞ!!」

グルシアが叫んだ時、魔女の腕の力が抜けて、ズルズルと崩れ落ちて行った。
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