【完結】鍵をかけた君との恋
「もうちょっとそっち行って。見えない」
「乃亜は捲るのが早いんだよ。俺に聞いてからにしろっ」

 帰ってくるやいなや肩を付け合い、小さな漫画本一冊に見入る私達を見て、楓は笑った。

「お兄ちゃんはいつでも読めるんだから、乃亜ちゃんに貸してあげなよ」
「どうして俺が俺の金で買ってんのに、乃亜が最初に読むんだよ!おかしいだろ!」
「男らしくないなあ」
「男も女も関係ねえ!」

 その間に、私はまたページを捲る。

「あ!俺まだ読んでねーよ!戻せ戻せ!」
「もう勘弁してよ。陸はさっきから読むのが遅すぎなんだよぉ」
「っとにわがまま!」

 それを見て、楓がまた笑う。こんな時間がたまらなく好き。


 まだ外が明るい夕方でも、陸はやっぱり私を送ってくれて、帰っていく。それは私にだけなのか、他の子にもそうなのかはわからない。

「ただいま」

 静かな家。今週の父は出張で、奈緒さんは用事があり実家へ帰っている。
 だからこれは、玄関で微笑む母へ向けて。

「ただいま、お母さん」

 おかえり乃亜、と聞こえれば、心は和む。

 BGM代わりのテレビをつけて、カップ麺にお湯を注ぐ。三分間が、やたらと長い。
 ふと、森君の言葉が頭を過ぎった。

 俺のとこ紹介しようか?
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