【完結】鍵をかけた君との恋
「私、好きな人いるんだよなあ」
「そうなの?この学校?」
「ううん、違う学校。小学校と中学校は一緒だったけど」

 その途端に親近感が湧いた私は、身を乗り出して聞く。

「双葉は、その人に告白したことはあるの?」
「あるよお、何回も。全っ部撃沈」

 こんなに可憐な彼女でも、叶わない恋があるのだと知り驚いた。

 物憂げに頬杖をついた彼女は、窓の外を眺めて言った。

「彼じゃなくてもいいやって思うのに、どうしても彼じゃなきゃダメだって、そう思っちゃう自分が嫌になる時がある。彼は恋人もいないのに私をフるんだから、もう、頑張っても無理なのに」

 彼女の言葉はまるで、私の想いを代弁してくれているかのようだった。
 陸以外の人でいいと何度も思うけれど、やっぱり陸がいいと何度でも思ってしまう。失った今だからわかる。私には陸しかいなかった。

 しんみりとした雰囲気の彼女に、心ばかりの助言をした。

「私もね、幼馴染に好きな人がいるの。だけどもう、彼は私の親友と付き合っちゃったから、今の私はふたりを応援しなきゃいけないの。努力しちゃダメな立場なの」

 双葉の丸い瞳が(せば)まった。

「今の双葉はまだ、努力が許されるんだよね」
「努力……」
「双葉がこうやって他の人と番号交換をしている間にも、彼は誰かに告白されているかもしれない。彼がそこで付き合ってみようと思えばもう遅い。略奪するのはその誰かを傷付ける。だから、繋がれるうちに繋がって。諦められないなら、頑張って欲しい」

 彼女を説得するふりをして、私は己の言葉に耳を傾けていた。もう自分は手遅れなのだよ、と。

「乃亜ちゃん」

 切なげに、双葉が言う。

「辛かったね」

 辛かったね。そう過去形で言ってくれたから、じんわりと身に沁みた。もうこの恋は過去のもの、陸は前に歩んでいった。今後、陸が私を追いかけることはないし、私が彼を求めることもない。

 大丈夫。陸がくれたあの箱に、私達の思い出は綺麗なまま残っている。初めてされた告白も、お揃いの御守りも、夜の校庭でしたキスも。

 だから、いつまでもこんな態度で陸と接していてはダメなんだ。ずっと一緒にいたいから幼馴染でいる道を選んだのに、これで彼との関係が途絶えるのならば、恋愛をして別れがくるのと同じじゃないか。
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