冷徹御曹司は想い続けた傷心部下を激愛で囲って離さない
二章 冷徹で強引な、優しい上司
 十一月下旬にしては珍しくあたたかい、週初めの月曜日。
 職場の自席に座るあさひの視線の先では、スリーピースのジャケットを脱いでシャツとベスト姿になった凌士が、矢継ぎ早に指示を飛ばしていた。

 部長以上の役職者の席は、窓を背にしてフロア内を見渡せるように設けられている。
 凌士の席も例に漏れず、事業開発統括部全体を見渡せる配置だ。逆に言えば、あさひの席からも凌士の姿はよく見える。

 凌士の元には、部長クラスの社員が引きも切らず訪れる。統括部長という役職柄、並行して進む複数のプロジェクトの把握は当然とはいえ、さばくのは大変そうに思える。

 しかし、あさひの見る限り、むしろ大変そうにしているのは部長らのほうだった。

「次世代エンジンプロジェクトのうち駆動機構は、A案に変更になった。内藤、お前のところで挽回しろ」
「その件は岡本部長では……?」
「岡本の部署は外す。あいつに任せても、プロジェクトが進まない。研究所が痺れを切らしているから、お前はおなじ(てつ)を踏むな」
「……わかりました」

 内藤と呼ばれた部長が下がったと思うと、別の部長が資料を持ってやってくる。それを凌士は一暼(いちべつ)しただけで突き返した。

「将来予測が甘い。二年後の欧州の規制強化から見た視点が抜けている。欧州の環境規制は日本にも影響するんだ、予測に落としこめ。ところでお前が主導していた、EVの普及戦略はどうなった」

 凌士の鋭い指摘を受けて部長が説明をするが、満足するものではなかったらしい。凌士は即座に話を切り上げた。部長が眉根を寄せて帰っていく。

「——碓井チーフ、スマートモビリティー実証実験の話、碓井チーフで止まってません?」

 だしぬけに向かいの席から声をかけられ、あさひははっとして目線を自席の前に戻した。手嶋だ。のっそりとした熊みたいな風貌をした、二歳年下の部下である。
 あさひは慌てて意識を切り替えた。

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