冷徹御曹司は想い続けた傷心部下を激愛で囲って離さない
 ヘアサロンでかけてもらったパーマが取れかけ、カラーリングした色も抜けて黄色っぽい茶色に変わっている。それがみじめさに拍車をかけた。

 結麻みたいに可愛くもない。ふんわりした女子っぽい服は似合わないから、あさひのファッションは、無難なニットと細身のパンツ姿が定番だ。
 重ための前髪の下から覗く顔立ちも、これといって特徴はない。すっぴんだと目元がぼんやりするため、目元だけは美容雑誌を参考にメイクで盛っているけれど。全体的に、パッとしない自覚はある。

 そのあさひは、前の部署に所属していたときから、職場には内緒で当時の上司である野々上景と付き合っていた。

(少なくとも、わたしはそう思ってたのに)


 なんでこんな話を聞かされているのか、頭が理解を拒否してしまう。

「だからなに?」

 結麻が笑う。勝ち誇った顔が目に浮かぶようだ。

「景ちゃんを取っちゃいけないってことはないもん。あさひ先輩の、仕事もバリバリやってますっていうオーラ、前から鬱陶しかったんだよね。景ちゃんも、私といるとほっとするって言ってたし」

(早く出ていって……っ。聞きたくない)

「あー、わかる。昇進した私、素敵ーみたいな圧も鼻につくっていうか。やったじゃん、結麻」

 心臓がぎゅっとつかまれたようになり、あさひは酸素を求めるようにはくはくと喘ぐ。

「ふたりが付き合ってること、碓井さんは知らないんだよね?」
「そうそう。でも、もう別れるんじゃない? 景ちゃんは別れるって言ってたよ。可愛げがなくなって冷めたって言ってたもん」

 ふたりは、ひとしきり結麻の恋愛とあさひへの陰口に興じてから出ていく。あさひは唇をきつく噛んだ。
 どれくらいそうしていただろう。
 気づけば昼休憩もほとんど終わりかけだ。さすがに職場に戻らなければならない。
 だけどその前にこれだけは……と、あさひはのろのろとスマホを取りだし、景にメッセージを送った。結麻のことで話がしたい、と。

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