冷徹御曹司は想い続けた傷心部下を激愛で囲って離さない
五章 シンプルな本心
 如月家にとって、毎年クリスマスは接待の日だ。あさひがその意味を知ったのは、クリスマス当日だった。

「デートできなくて悪かった」
「とんでもないです! みんなキラキラしてて、わたしも初心に返る大切さをあらためて知りました」

 ひとの捌けた授賞式の会場で頭を下げた凌士に、あさひは笑顔でかぶりを振った。
 如月モビリティーズでは、子どもたちを対象にした絵画コンクールを毎年開催している。未来を担う子どもたちを支援する、社会貢献活動の一環だ。

 お題は「未来を、動こう」――子どもたちが考える未来とそこに登場する移動手段。移動手段は、車に限らなくてもいい。「走る」ではなく「動く」としたのも、広い視点でのびのびと描いてほしいからだという。

 ともあれ、クリスマスの今日はその授賞式が執り行われ、社長の代理で凌士が出席したのだった。あさひも列席者の親子にまじって、会場となったホテルの後方で授賞式に参加させてもらった。

 受賞者たちにはこのあと、受賞作が展示されたバンケットルームでのパーティーが予定されている。皆、すでにそちらへ移動していた。

「スライドで紹介された絵、どれも夢がありましたね。どれもわたしには思いもよらない発想でした」

 ただただシンプルに伸びやかに、思い描いた夢を画用紙に乗せる。特に低学年はそれが顕著で、あさひには眩しかった。

「楽しんだようならよかった。俺も毎年、けっこう楽しみにしててな。悪いとは思ったが……」
「いえ、呼んでいただきありがとうございました」

 あさひは普段よりはドレッシーなワンピース姿でお辞儀をした。スーツ姿の凌士が微笑んであさひの背に手を添える。

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