Einsatz─あの日のメロディーを君に─

第7話 見せかけの関係

 一泊二日の宿泊研修があって放課後にもキャンプファイアの出し物の練習をしたおかげか、二ヶ月ほど経った頃にはクラスはみんなが仲良くなっていた。

 けれど、それは少し厄介な問題があった。班を作る関係で男女それぞれ三人組が出来れば問題なかったのに、四人組になっているところがあったので美咲は彩加と二人組だった。四人組のところから一人抜けてもらうわけにもいかなかった。

 美咲と彩加は放送部に入っていて、昼休みは昼食時に音楽を流す仕事があったので当番の日はそのまま放送室で過ごしていた。放送室は職員室の向かいにあって、近くを歩いていると担任に声をかけられた。話があるというのでついていくと、会議室の更に奥の小さな相談室に連れていかれた。
 美咲と彩加は〝少々やかましい生徒〟だったので注意されるのか──と思ったけれど、それは違ったらしい。

「あの四人組の中に、舟木(ふなき)さんっているでしょ?」
「うん」
 舟木沙智(さち)はここ数日、学校を休んでいる。
「あの子、最近ちょっと他の子たちと上手くいってないみたいなのよ。それで、佐方さんと紀伊さん、二人でしょ? だから今度の班替えのときに舟木さんを入れてやってもらわれへんかなぁ?」

 いつの間にか沙智は、不登校になっていたらしい。
 特に問題はなかったので同じ班になることになり、担任は沙智に連絡した。けれど、沙智はしばらく登校しなかった。

 そして、班替えの当日──。

「ええっ、ちょっと待って、待って……やめて……」
 班の男女の組み合わせが黒板に書き出され、それを見た美咲と彩加は急に挙動不審になった。
「やぁーめぇーてぇー……えええ……どぉぁあ」

 同じ班の男子の中に、朋之がいたからだ。
 少し離れて見ているくらいがちょうど良かったのに、同じ班になるなんて想定外だった。
「待って……あかんって……」
 もちろん、良いか悪いかと聞かれれば、良いと即答するくらい嬉しかったけれど。

 決まったものは仕方ないので、机を移動させた。
 男子三人が前で、美咲と彩加は彼らを観察する形になった。
「美咲ちゃん、どうしよう?」
「さぁー……ははは」
 全く話はしなかったけれど、彩加も朋之が気になっていたらしい。

 班内での役割を決めることになり、机を向かい合わせるように言われたけれど。
「あなたたち、どうしたの?」
 担任に言われても、美咲と彩加は前を向いたままだった。班の男子と机を合わせるなんて、出来るはずがなかった。

「俺、日誌~♪」
 我先にと名前を書こうとしたのは、米原(よねはら)史明(ふみあき)だ。当番が回ってきたときに日誌をつける係に立候補して元気良くペンを手に持ったけれど。
「アホか、レディーファーストじゃよ!」
「え? あー、うわーっ!」
 朋之が史明から紙を取りあげ、笑いながら後ろに回してきた。紳士な対応に思わず惚れてしまった。
「ははは。ありがとう……えっと……どれする?」

 悩んだ末に美咲と彩加は、昼休みにお茶が入ったヤカンを取りに行く係になった。史明が望んだ日誌係は朋之がなり、史明は班長になった。

「班名どうする? おい、おまえら遊んでんなよ」
 朋之は真面目に、美咲と彩加も机を離してはいたけれど話し合いには参加していた。けれどそれを無視して史明ともう一人の男子は勝手に遊んでいた。

「班長ふみ君……あ、ヨネハラフミアキとか良くない?」
「はあ? なんでやねん」
「おお、そうしよ、それで良いやん」
「やめろよ、おいー!」
「じゃ遊んでんと考えろよ」

 史明は意見を出そうとしたけれど、班名に賛成しているもう一人から遊びの世界に引き戻されていた。美咲と彩加も異論はなかったので朋之に任せていると、彼はしばらく考えたあとでニヤッと笑って何かを書き始めた。

「何書いてんの……?」
 気になったので、手元を覗きに行った。
「夜寝る腹……? 踏む……秋……って、ヨネハ──」
「よーねーはーらーふーみーあーき」
 さっき紳士に見えたのは、気のせいだったのだろうか。
「よし、これで良いな。先生ー、はい、出来た!」
「もう出来たの? はい、もらいました」
「あっ、おい、待てよー! あーっ!」
 最終的に班名は、〝夜寝腹踏秋〟になった。

 秋の文化祭ではやはり学級歌を歌うことになり、伴奏は美咲と彩加が二人ですることになった。

 指揮をすることになった奥田(おくだ)祐介(ゆうすけ)は、裕人と一緒に教室のいろんな物をなぜか壊していた。美咲が音楽室の掃除道具入れにもたれていたら扉が外れてしまったのを奥田に見られていて、「あいつ破壊魔や」と言われたことがある。だから美咲は「じゃ、あいつは破壊大魔王」と言ってやった。それくらい、奥田と裕人は破壊しまくっていた。

 ドアに黒板消しを挟んでいたのも、黒板にカタツムリを這わせていたのも、先生のズボンにチョークをつけていたのも、栗を拾ってきて教室中に散らかしていたのも、そのほとんどは破壊大魔王と裕人の仕業だった。
 ──ちなみに違うクラスになった高井は、教室でボールを蹴って蛍光灯を割ってしまったらしい。

 四月に決めた学級目標の『学年制覇をしよう』は、悪い意味で既に達成できていた。自分たちがやんちゃなことはほとんどの生徒が認めていて、実際に先生たちも『このクラスが一番うるさい』と顔をしかめていた。夏に教室中の窓やドアが外されたのも、最初だったはずだ。昼休みに放送室に行って、教室に戻ったときにドアがなくて驚いたこともある。エアコンは設置されていなかったので、暑すぎて授業にならなかった。

 同じ班の沙智はやがて登校してきたけれど、大抵は保健室にいた。たまに教室に来たときは声をかけて話題を振っていたけれど、すぐに終わってしまって、なかなか続かなかった。美咲は彩加と一緒に朋之を観察していた記憶はあるけれど、沙智との記憶はない。

 二人は同じ放送部に入っていて同じ体育係だったので、学校にいる間はほとんど同じ行動をしていた。けれどそれは見せかけで、本当はライバルだったはずだ。彩加は成績が良いことで美咲を見下すような発言もあったし、美咲より少しでも朋之に近づこうとしていた。

 それぞれが本心を話せたのは、違うクラスの侑子だけだった。
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